第98回全国高校野球選手権の山形大会(開幕7月8日)の組み合わせ抽選会が23日、山形市内で行われた。今夏限りでの勇退を表明している渋谷良弥監督(69)率いる山形商は、11日の初戦で新庄南と天童の勝者と対戦する。日大山形で14度(夏11春3)、青森山田で8度(夏7春1)の計22度の甲子園出場を誇る名将が、有終の美を飾る。

 44度目にして最後の夏を迎える渋谷監督に気負いはなかった。「最後は生徒を信頼するだけだからね。1日でも長くやりたいね」。12年8月に山形商の監督に就任。来年3月末に山形市とのスポーツアドバイザー契約が満了するため、自ら今夏で区切りをつけた。斉藤聖嗣主将(3年)は「これも縁だと思った。勝って恩返しをしたい」と気を引き締めた。

 一貫した指導方針を掲げてきた。「野球の前の野球って呼んでるんだよね」。普段の生活態度がプレーに直結するという信念の下、学校生活にも目を光らせて選手の力を引き出してきた。先週行われた校内合宿では自らトスを上げ、今もノックバットを振り続ける。「ノックの飛距離が昔と比べて半分だよ。嫌になっちゃうよね」と笑い飛ばす。

 選手を一番に考えてきた。「甲子園に連れて行ったという感覚は1度もない。いつも生徒に連れていってもらってるんです」。だから負けた時にかける言葉はいつも一緒だ。「勝たせてやれなくてごめん」。春の県大会1回戦で米沢興譲館に6点リードから逆転負けを喫した。同じ言葉をかけられた斉藤は「自分たちの油断で負けたのに、監督にそんなこと言わせて情けない」と逆に発奮した。

 毎年、開会式2日前にベンチ入りメンバーを発表してきた。「今でも1年で一番つらい日。ベンチから外れる3年生の顔をまともに見られない。だからその日は一目散に帰っちゃうの」。22度も聖地に導いた名将でも、ベンチから外れる選手のことを考えると切なくなる。「いつが最後の試合になるか分からない。1戦1戦やるだけだね」。長年、燃やしてきた高校野球への情熱を、この夏で完全燃焼させる。【高橋洋平】

 ◆渋谷良弥(しぶや・よしや)1947年(昭22)2月28日、山形市生まれ。現役時代は投手。日大山形、日大を卒業後、社会人の金指造船(静岡)でプレー。72年に日大山形の監督に就任。73年山形県勢で初の春夏連続甲子園出場を果たし、春夏とも山形県勢初勝利を飾る。日大山形で30年、青森山田で10年監督を務め、12年8月から山形商の監督に就任。同校での夏の最高成績は15年夏の3回戦進出。