夏の甲子園出場3度の伝統校、双葉の最後の夏が終わった。相馬農、新地と3校の連合チームを組み、安達に0-5と初戦敗退した。東日本大震災による福島第1原発事故の影響から、17年3月限りで休校する。部員はわずか3年生2人。松本瑠二が先発マスクをかぶり、及川彰大外野手は9回に代打で登場した。6回まで0-1と互角に戦い、3校の校歌が歌える目標の3勝は達成できなかったが、全力を出し切った。

 二塁走者の松本が27人目のアウトになった。5点を追う9回2死一、二塁。捕手の捕球ミスで「自分で判断して」三塁を狙った。2週間前に左足甲の骨折が完治したばかり。降りしきる雨でグラウンドは水が浮いていた。足を滑らせてオーバーラン。タッチアウトで、開校94年目の双葉の野球の歴史が終わった。

 だれも松本を責めなかった。鵜沼良延監督(25)は「双葉の松本で終われて良かった。全員で納得して終われるのは本当に良かった」。松本は「みんなから、ありがとうと言われました。お前で良かったって」。平日はそれぞれの高校で練習し、相馬農と新地の選手もそろって練習できるのは週末だけ。大きなハンディを背負う連合チームだが、マネジャー1人を含む、ベンチ入り12人の絆は深かった。

 出場3度の甲子園で2勝した古豪は、来年3月限りで休校が決定している。ふたば未来学園高の開校に伴い、昨年から生徒募集を停止。スタンドには在校生の3年生8人、OB約20人、相馬農と新地の関係者などを含めた100人以上が、チームカラーの緑のメガホンを振って応援した。6回まで互角の内容に、声援は大きくなった。「応援が力になった。全力でやったことを見せられた」と、松本に悔いはなかった。

 もう1人の部員、及川は9回に1死一塁から代打で登場。四球を選んでチャンスをつくった。高校野球を終えることに「複雑です」と話したが、出塁には「ボールが良く見えてました。正直、うれしい気持ち」と最後の打席をうれしそうに振り返った。最後の一、二塁。双葉の2人がベースに立ったのも運命的だった。

 目標の3勝の夢はかなわなかったが、鵜沼監督は「3年間でベストのゲームができたと思います」とねぎらった。松本は「みんな全力で一丸になれたから、こういう試合ができた。人生の中で宝物になった」。試合直後の涙顔が、笑顔になった。【久野朗】