早実(西東京)の清宮幸太郎内野手(2年)が、逃げる相手をとらえて今大会3本目の本塁打を放った。第98回全国高校野球選手権(8月7日開幕、甲子園)西東京大会5回戦の国士舘戦に「3番一塁」で出場。3回の第2打席、1死二塁から右中間スタンドに運ぶ高校通算53号2ランで8強入りに導いた。7回の第4打席は1死一、二塁から敬遠気味の四球で、2打数1安打2四死球だった。21日の準々決勝は神宮球場で八王子学園八王子と対戦する。

 7回の第4打席で“事件”は起きた。4-0とした直後の1死一、二塁、清宮が敬遠気味に歩かされた。ダイワハウススタジアム八王子で過去最多となる、超満員1万1000人の観客がどよめいた。「高校では記憶にない場面。向こうの策略なので、仕方ないと思います」と残念がった。

 衝撃の1発が、この四球を呼んだ。3回の第2打席、初球から捕手が立ち上がり高めに外された。2球目は座ったが、外への完全なボール球。3球目も外に構えられたが、吸い込まれるように真ん中付近へ来た失投を右中間席にたたき込んだ。「いつでも捉える準備をしていた。狙ったわけじゃないけど、打った瞬間に入ったと思った」。恐るべき集中力で、逃げようとする獲物を逃さなかった。

 圧倒的な威圧感が、相手の手元を狂わせた。国士舘の松沢龍樹捕手(3年)は「最初から(ストライクで)勝負する気はなかった」と試合後に明かした。バッテリーの作戦は「歩かせてもいいから、外のボール球に手を出してくれるのを待つ」。春までは苦しめられた配球にも、清宮は動じなかった。「勝負を避けられているとは感じなかった」と涼しい顔で言った。

 “敬遠”には慣れている。北砂リトル時代に出場した全国選手権の初戦、第1打席で外角のボール球を左翼スタンドにぶち込んだ。その後の打席はすべて敬遠された。先頭打者でも、走者がいても、勝負してもらえなかった。高校でも厳戒態勢を敷かれる怪物スラッガーは「相手の投手(安陪)とはリトルの時から対戦していたので、やりたかったです」と、7回の打席を寂しそうに振り返った。

 敬遠といえば、92年夏の甲子園で起きた星稜松井の5打席連続が有名だ。清宮は今夏4戦3発で、松井の通算60発超えを早くも視界に捉えた。21日の準々決勝からは、昨夏本塁打ゼロに終わった神宮に舞台を移す。「東京の高校球児の聖地で、特別な場所。たくさん応援に来てもらって、力を貸してほしいです」。厳しいマークをはねのけ、頂点を目指して打ちまくる。【鹿野雄太】