ファンやOBの大声援を受けて戦った上尾だったが、花咲徳栄に敗れた。34年ぶりの甲子園出場はならなかった。

 創部から60年の名門。70代を含む野球部OBたちが連日、球場に足を運び、後輩たちを応援した。その中の1人、小川満さん(71)には特別な思いがあった。小川さんは71歳にして、上尾野球部で打撃投手を務めている。

 183センチ、背筋がしゃんと伸びた長身右腕だ。上尾野球部の6期生で、かつては社会人野球・新神戸電機の監督を務めたこともある。今夏は第100回大会。小川さんの高校3年時は第47回大会だった。「最後は準々決勝で負けたよ」と回想する。

 母校の練習を手伝い始め、かれこれ18年。定年退職で年金生活になってからは、本格的に打撃投手をしている。1日で300球投げることもある。しかも、全てボランティアだ。「子どもたちのために何かをしてあげたいと思ってね」と汗を流し、おいしそうに水を飲む。

 もちろん快速球ではない。ただ、さすがの指先感覚。手元のキレが現役球児たちを時にてこずらせる。小川竜太朗二塁手(3年)は「自分の得意コース、苦手コースをちゃんと知っていてくださって、調子が良くなるように投げ分けてくださる」とその精密なコントロールに驚く。準決勝では本塁打に二塁打。決勝でも花咲徳栄・野村佑希投手(3年)から2安打したバットコントロールの礎を、小川さんに築いてもらった。

 そして、何より。「暑い中でも、自分たちのために何十球、何百球と投げてくれる。本当にありがたいです」と日下春人主将(3年)はしみじみと感謝を口にする。

 「何とか甲子園に行かせてやりたいねぇ」。孫のような年齢の、後輩たちの願いはかなわなかった。でも、小川さんはまだまだマウンドを降りない。「煙たがらず、指導者の方々にも選手のみんなにも温かく迎えてもらえるのが1番うれしいね。迷惑かけないように頑張ります。球は年々、良くなってるけどね」と豪快に笑った。【金子真仁】