金足農の最速150キロエース右腕・吉田輝星(3年)が、11年ぶり6度目出場の立役者となった。昨夏決勝で敗れた明桜との再戦で、9回4安打11奪三振で完封。今大会2本塁打の宿敵・山口航輝外野手(3年)も4打数3三振に封じ、2-0で勝利した。打撃でも全得点に絡む大活躍。U18日本代表候補が、全国の強打者と真っ向勝負を挑む権利を得た。

 吉田の132球目だった。「最後は狙っていきました」。空振り三振で甲子園切符をつかむと、振り返って仲間とガッツポーズ。歓喜を分かち合った。「今まで味わったことのない優勝。いろいろなうれしさがこみ上げてきた特別な勝利」。ともに戦ってきたベンチ外を含めたチームメート。昨夏まで一緒に戦い、決勝で敗れた先輩たち。支えてくれるすべての人への感謝を込めた、今大会通算636球の全試合完投だった。

 8回裏に自身のスクイズで2-0とし、最終回のマウンドに上がった。先頭は山口。ともに1年から登板し、投打における宿敵と集大成の決戦がクライマックスだった。初球に本塁打かと思われた左翼線への打球は、わずかにファウル。お互いの視線を合わせて笑った。スイッチが入った。

 2ストライクで迎えた4球目。「自信のある高め直球で三振を取りにいきました」。だが、150キロに迫る直球がバックネットに直撃するほど力が入りすぎた。続く5球目。「ストレート1本しか待っていなかった」と言う山口に対し、「自分の持っているものは全部出した。1本のヒットも打たせるつもりはなかったし、あいつのすごさを分かっているからこそ投げました」。外角低めのスライダーで空振り三振。1打席目が内角直球で三振、2打席目が一飛、3打席目も内角直球で三振。完全決着は、甲子園での強打者に立ち向かう原動力になる。

 今年1月4日、金足神社に全員で初詣し、必勝祈願を行った。新チームの目標は「金農史上最高の4強超え」。ところが代表して絵馬に記した吉田は、「全国制覇」と力強く書き込んだ。「一番高いところを見ないと達成できない。甲子園出場は通過点。一緒に苦労してきた仲間は当然ですが、今まで勝ってきた人のためにも誰にも負けられない。山口のためにも」。秋田を代表する「背番号1」の自覚はたっぷりだ。

 2年連続で夏準優勝だった金足農野球部OBの父正樹さん(42)にも秋田県の優勝旗を手渡し、最低目標はかなえた。150キロの切れ味鋭い速球と変化球とのコンビネーション。「どの試合でも0点に抑え続けることが、自分に期待されているし、一番喜んでもらえる」。甲子園でも、球速ではなく、勝負にこだわり続ける。【鎌田直秀】