平成元年の89年にセンバツ優勝を飾っている東邦(愛知)が、同年以来30年ぶりの決勝進出を果たし、平成最後の甲子園優勝に王手をかけた。

ヒーローは吉納翼外野手(2年)だった。0-0の投手戦で迎えた7回。四死球で2死一、二塁のチャンスをつかみ、2年生の7番打者が左打席へ。「ネクストサークルにいて、何か打てるような感じがしていた」。2ボールから甘い直球をとらえると、白球が左中間のスタンドで弾んだ。

ベンチで祈るように見ていたエース石川昂弥(3年)は両手を上げて、何度も飛び跳ねた。その視線の先で、吉納は雄たけびを上げながら両こぶしを握っていた。先輩たちにもみくちゃにされ「みんなが抱きしめてくれて。あれだけの大人数に囲まれることはないので、うれしかった」。単独のお立ち台で笑顔を見せた。

高い打力を買われていたが、昨年8月にスイングした際、右手有鉤(ゆうこう)骨を骨折。4日間入院し、チーム合流に2カ月近く要した。その間も仲間に励まされ、くさらなかった。県大会の準決勝から復帰。実は痛みがあるのを黙っていた。それでも打率4割の成績で、バットでセンバツ出場に貢献した。

だから、故障の苦しさは分かる。決勝アーチの直前に河合佑真外野手(3年)が右手に死球を受けた。1度はプレー続行の意思表示をしたが、自分への初球のあと、河合は塁上で顔をゆがめてギブアップのサイン。ベンチに下がった。

本塁打を放ってベンチに帰り、喜び合うと、すぐに河合の元へ。「大丈夫ですか」「たぶん折れてるわ」。心を痛めた。だが、すぐに気を取り直した。「河合さんが無理だったら、僕が守備でも打撃でも引っ張らないといけない」。

石川や4番の熊田任洋内野手(3年)ばかりが目立つチームといわれていたが、センバツでは上位、下位関係なく得点する流れが生まれている。

森田泰弘監督(59)は優勝への思いを聞かれると即答した。「もちろんです。そのために来ていますから。うちは優勝(を目指す)と言える高校だからね、と選手には言ってある。伝統もあるし、今年は石川もいる。今までのチームでは遠慮してあまり言わなかったけど、今年は言ってもいいのかなと思っています」。平成の甲子園の締めくくりへ、東邦の勢いがまた増した。