<高校野球春季岩手大会沿岸南地区予選:大船渡7-0高田>◇6日◇決勝◇住田町運動公園野球場

高校野球の春季岩手大会沿岸南地区予選が6日、同県の住田町で行われ、最速163キロ右腕の佐々木朗希投手(3年)を擁する大船渡が快勝した。「4番右翼」でスタメン出場した佐々木は登板機会なしも、4安打2打点と打撃でも非凡な力を発揮。外野から的確なポジショニングを指示し「ノーヒットノーラン勝ち」に貢献した。入社31年目の井上真記者(54)が「放浪記」でフィーバーをルポした。

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GWにデスクに「放浪して来て」と言われても、そんなことでカリカリしていては、現代社会は生き抜けません!

こどもの日に、家族連れでごったがえす大宮駅から一ノ関まで、新幹線の中では立ちっぱなし。律義に後輩記者が迎えに来てくれて助かったが、それもつかの間。大船渡のホテルで寝たと思ったら、気が付けば住田町の球場に朝7時に到着。試合開始は午後12時半。

なんで? 早すぎるだろうと、思っていたら会社の先輩はなんと、早朝4時半に球場着。なんてことだ。確かに、瞬く間に駐車場が埋まっていく。スタンドにもう席はない。佐々木朗希の集客力恐るべし。

球場の周囲は田んぼ。水を張り田植えに備えている。その風景の中に、飲食店、コンビニ、役場が点在する。そして、各駐車場に高校生がパイプいすで待機。迷惑駐車防止、兼案内役で、7時前から座っていたそうだ。「この仕事も、ロウキフィーバーのひとつです」と朗らかに教えてくれた。まったく嫌みがない。先日、佐々木と対戦したというその高校生2人は「僕は三振です!」「僕はセンターフライです!」と、さわやかに答えてくれた。う~ん、すがすがしい。ありのままを、スパッと答える。とっても感じがいい。

佐々木は4番右翼で出場。4安打も、登板機会はなかった。広い肩幅、長い足、小さい頭。外野ノックで、どんな返球をするか、じっくり見たが、軽~く、力が抜けたリラックスしたフォームで、ゆったり返球。ただ、そのゆったり感がかえって、本気出したらどんな剛球になるのだろうと、想像をかきたてられた。

試合をライトフェンス際で立ち見してると、隣のおじさんと目があった。自然と言葉を交わすと、専大北上高のファンだった。夏の地方大会で対戦するかもしれない佐々木のピッチングを見に、1時間半をかけて遠征してきた。「佐々木君にはどんな期待してますか?」と聞く。「そうだねえ、活躍はしてほしいけど、夏の大会で連投して体を痛めてもらいたくないね。それが心配だね」ってぼそっと言った。

さきほどの「三振です!」とハキハキ答えた高校生といい、年配の高校野球ファンといい、雰囲気が押し付けがましくない。岩手県の風土というか、飾り気のない人柄になじんだ。

「岩手県といえば宮沢賢治ですね」。そう言うとおじさんは「そうだね。みんなそれは誇りに思ってるね。でも、雨ニモマケズまでは言えるけど、その先は忘れてしまったけどね」と笑った。そして「今日は佐々木君はもう投げないね。残念。はい、これ。あめです」と言って、小分けの袋を2つ手にのせてくれた。

岩手の田園風景を薫風が吹き抜けた。こんな土地柄で佐々木朗希は育ち、やがて巣立っていく。東京からマスコミが大勢押しかけ騒ぐが、そんなものではここのリズムは乱れないと感じた。

新幹線、試合中とずっと立ちっぱなし。慌ただしく駆け抜けたみちのく放浪となったが、若葉芽吹く中、球界のホープと、岩手の風に触れて、得した気分になった。

きっと帰りの「はやぶさ」も座れないな。でも、そうか。雨ニモマケズの精神か。

(中略)

行きの新幹線はギョーザ弁当

帰りの新幹線はカニ弁当

いずれも席はなく

デッキで静かに食べている

ニュース取材は戦力外で

記録データはオロオロ調べ

みんなにへっぽこと呼ばれ

褒められもせず、むげにもされず

ビミョーな感じの放浪記者かな。【井上真】