東大野球部出身の小林航監督(33)率いる厚木東が、5回コールドで2年連続初戦を突破した。大学院時代に米国留学し「セイバーメトリクス」を研究。「攻撃的2番」で起用した中山航生外野手(3年)が、公式戦1号本塁打を含む3安打3打点と機能した。

狙いがハマった。9-1の5回1死二塁、中山がコールド勝ちを決める高校通算15号本塁打。喜ぶ選手たちと対照的に、指揮官は冷静に振り返った。「しっかりやってくれました。統計的データでも2番は重要になってくるので」。長打力に加え、出塁率が高い中山はOPS(出塁率+長打率)1・024。0・9以上で優秀という指標で高水準をマークしている。

平塚出身の小林監督は、平塚江南で主将を務めた後、現役で東大に合格。捕手として東京6大学リーグ戦にも出場した。同大大学院時代に、セイバーメトリクスの名著「メジャーリーグの数理科学」を読んで感銘を受けると、著者のジム・アルバート氏にメールなどでコンタクト。「飛び込みで行った感じ」で米オハイオ州のボーリンググリーン州立大に留学し、約半年間、同氏の下で学んだ。取り組んだテーマは「前進守備のメリットとデメリット」。メジャーリーグの過去10年以上の試合から、カウント別、走者別の膨大なデータを分析した。

卒業後は教員に。初任校では野球に携われなかったが、17年春に厚木東に異動となり、野球部長に就任。同年秋の新チームから指揮を執る。選手に専門知識まで植え付けることはないが、アウトカウントと走者状況別のデータなどはきっちりと教え込む。「例えば1死三塁では、何%の確率で点が入る。でも1死二塁なら何%。だから先の塁を狙うとかですね」。

グラウンド外でも指導力を発揮する。週に数日間は、練習終了後に約2時間の「勉強会」を実施。担当の数学はもちろん、米国留学経験もありTOEIC950点と得意の英語も指導する。中山は「1人では怠けてしまうタイプなので、ありがたいです」。入学当初は学年約280人中、70位前後だった成績が、10位前後にまで上がったという。エースの石田和輝投手(3年)は理系で学年トップクラス。「先生と一緒にやると勉強も効率的。東大は現実的に厳しいですが、現役で国公立大を目指したいです」と話す。

チームのモットーは「真の文武両道」。野球も勉強も科学的で効率的な指導で、全力で上を目指していく。【鈴木正章】

◆セイバーメトリクス◆ 米野球学会の略称「SABR(セイバー)」と測定基準を意味するメトリクスを組み合わせた造語で、野球を客観的データで分析し、選手の評価を行ったり戦術を組み立てる試み。メジャーでは浸透しているデータ指標