宇都宮南(栃木)が主将で3番の高田知希内野手(3年)に導かれ、初戦からエンジン全開でコールド発進した。

初回に高田が四球を選び出塁すると、続く4番佐々木優斗捕手(3年)が先制の適時二塁打。先制ホームを踏んだ高田は「内容はどうであれ、先制というのはでかいのでうれしかった」と喜んだ。その後も2、4回に打者一巡の猛攻。計13安打で12点を挙げた。

全打席で出塁して勝利に貢献した高田は、部員に「みんなの神様」と呼ばれるほど温厚な人物だ。そんな優しいキャプテンも過去に辛い経験をした。「恩返しをしたい人は?」という質問に「亡き父」について打ち明けてくれた。

中学3年で肺ガンで父を亡くした。容体が悪化してから母の芳子さん(52)から打ち明けられたというが、父は高田が小学生の時に余命宣告をされていた。しかし、奇跡的に一命を取り留めると、中学の時は高田と一緒にキャッチボールをするまでに回復した。その当時、高田は父の病気について知ることはなかった。

高田は「今の自分の守備があるのは、ぼーっとしていたら父が怒ってくれたから」と振り返る。野球の基礎をつくってくれた父の最後の言葉は「大会で悔いのないように頑張ってくれ」だった。当時の大会でベスト4に進出。父との約束を果たした。

女手一つで息子を育てた母はこの日「朝は『強気で相手はどこであれ1点も挙げちゃだめだよ』という気持ちで送り出しました」と息子を見送った。主将として野球に取り組む息子に「中3で父を亡くした時より、1回りも、2回りも成長してくれました」と感動した。その涙ぐむ姿に、他の保護者から「まだ泣くのは早いよ」と言われ、周囲が笑いに包まれた。母は「シードを外れてしまったが、ベスト8、ベスト4と上を目指し、1人1人が悔いの残らないように戦ってほしい」と期待する。

高田は、この日の内容に決して満足しない。「先制のホームを踏めたが、結果に対して満足はしていない。ベスト8以上の学校からヒットを打ちたい」と訴えた。強いまなざしの底にあるには父への思いだ。「父に元気に野球をやっている姿を見せたい。できれば甲子園で」。そのためにもこの日の夜は「大好きなしゃぶしゃぶ」でパワーを蓄える。【佐藤勝亮】