阪神などでプレーし、昨年8月から母校の智弁和歌山を率いる中谷仁監督(40)が夏初陣を飾った。まな弟子の東妻純平捕手(3年)が長打の適時打2本で3打点を挙げ、扇の要としてエース池田陽佑投手(3年)を9回完封に導き、白星をプレゼントした。

  ◇    ◇    ◇

全国制覇した高校時代とも、プロ野球とも違う怖さを知った。「難しかった。経験豊富な彼らでも緊張していた。僕も緊張しました」。智弁和歌山・中谷監督は初回からずっこけた。

プレーボール直後。1死から平凡な打球が二塁手の黒川史陽主将(3年)の股を抜けた。「見事なトンネルでしたね。その代わり打撃でガチンと行くかと思ったら(裏に)ボテボテの投ゴロ。『おいおい』となりました」と苦笑いだ。

試合を落ち着かせたのは東妻だった。捕手としてエース池田陽をリードして序盤を乗り切ると、4回に自らの中越え2点三塁打で先制。8回にも左翼線二塁打で4点目を挙げた。「上からたたきつぶす速いライナー、ゴロを打とうと思っていた」と無欲で長打連発した。

春季近畿大会の智弁学園(奈良)戦で最大5点差を逆転されると回の途中で懲罰交代。同じ捕手だった中谷監督のムチは強烈だった。1年夏から4季連続甲子園メンバー入りのプロ注目捕手をどん底に落とした。

東妻は必死に前を向こうと、ロッテ投手の兄勇輔(23)に相談。「長く野球をやっているとこういう時期もある。プロに行ったらもっとしんどいことがある。やり切れ」と励まされた。「初心に戻ろう」と導いた答えは「チームのためにどうするか」。

夏の厳しい戦いを勝ち抜くには、背番号2の成長が不可欠と中谷監督は見込んでいた。完封勝ちを果たし「僕らが求めるものは高い。彼なりに消化している。今日はバッテリーが頼もしく見えました」と、一皮むけた姿にうなずいた。

春の甲子園は経験したとはいえ「周囲が、夏は違う、夏は違うと言うので変に意識してしまう」と苦笑い。元プロ指揮官にとって、夏初戦は大きな1勝になった。【柏原誠】

▽智弁和歌山・池田陽(5安打11奪三振で完封)「70点です。もっと楽に投球できたと思う」