日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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春はセンバツから…という言い伝えがある。球春が遠のいていく。プロ野球の延期が決まった2日後、センバツが中止になった。無観客試合を前提に開催する方向だった、大会が最終段階で覆ったのだ。

臨時運営委員会には26人(委任2人)が出席したが、メンバーに強行すべきという意見はなかったという。史上初の中止を決断した歴史的瞬間について、関係者は「多数決ではなかった」と振り返った。

最終的には、会見で何度も「苦渋の決断」と語った高野連の八田英二会長、「断腸の思い」といった丸山昌宏大会会長(毎日新聞社社長)の2人が、1時間40分の話し合いをまとめたのだった。

最後まで球児の夢をかなえるために開催の可能性を探ったが、ここにきて中止せざるを得ない状況にも追い込まれた。別の関係者は「これでは野球が、野球でなくなってしまう…」ともらした。

これまで、大会本部は新型コロナウイルス感染予防に最大限努力する約束を公言した。だが、医学的見地から受けた説明にはがくぜんとしたという。「ベンチ前での円陣」「マウンドでの集合」もNGとされたのだ。

様々な制約を受け入れながらの実施なら考えられたかもしれない。マスク、消毒液など物資の準備をしてリスク低減はできた。だが、ナインがお互いを勇気づけ、励まし合って、絆(きずな)を確かめ合う行為までが禁止された。

チームワークによって、お互いが助け合いながら勝利を追求する。八田会長が「学校教育の一環」と繰り返した高校野球の理念までが、感染症という“見えない敵に”犯されかねない。もはや、観念せざるを得なかった。