23日から始まる山梨大会で、甲府工が哀しみを乗り越え優勝を狙う。今月5日、昨年までともにプレーしてきた五味太陽さんが18歳で亡くなった。交通事故だった。

「誰も予期しない突然の出来事にぼうぜんとした。受け止めきれなかった」

チームのムードメーカー山村貫太外野手(3年)が一番尊敬している1学年上の先輩だった。入学して最初に声をかけてもらい、キャッチボールもペア。遠征先の部屋も一緒。言葉数は少なかったが、何事にもひたむきな背中を見て学んだ。甲子園の中止が決まった時も電話をかけ「夏が終わったら、ご飯に行こう」と約束も交わしていた。

涙が止まらなかった。だが「こんな時、先輩は何と言うだろう」と考えた。「俺の心配をするな。お前らならできる。頑張れ」。きっとそう言う。素直な気持ちをチームに伝えた。「僕たちは、切り替えなくてはいけない」。手紙をしたため、先輩の父に渡した。「ルールを守ること。一瞬、一瞬を全力で生きること」をお願いされた。

山村は父宏樹さんに「誰かのために野球をしなさい」と、常々言われてきた。チームのため。大好きな先輩のため。山梨で1番を取る。自然と目標は定まった。楽天などで活躍した元プロ野球選手で、今はチームのコーチでもある宏樹さんから「指示しなくても動ける子が多い代。昨年冬から監督が怒っている姿は見たことがないくらい」と評価されるナイン。だから前を向ける。甲府工に特別な夏が訪れようとしている。【三須佳夏】