第93回選抜高校野球大会(19日開幕)に21世紀枠で春夏通じて甲子園初出場の東播磨(兵庫)は「十一変化」の名物メニューで聖地初勝利を目指す。アマチュア球界の名将や知将に学ぶ連載「監督力~新時代を生きるヒント」の第2回は福村順一監督(48)を直撃。師と仰ぐ森脇忠之氏(63=現神港学園総監督)から社(兵庫)コーチ時代にヒントを授かって、練習法をアレンジした。走攻守の「魔法のメニュー」を動画などで紹介する。時間、場所に制約がある公立校の戦法で大舞台に挑む。【取材・構成=酒井俊作】

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プロでも見たことがない光景だった。ノッカーが外野手に飛球を打つ。ここまでは普通だ。だが、足元に赤や緑のマーカーコーンが無数に置かれている。この間を縫うようにして動き、フライの落下点を目指す。コーンを踏んではいけない。名物メニュー「地雷ノック」に、選手は真剣に取り組んでいる。不意に大声が割り込んだ。

「打球見て、基本は最短距離で入らなあかんで!」

監督の福村だ。くねくね動き、捕球に一苦労。その様子を見て指揮官は言う。「遊びです。飽きさせないようにね」。だが、本音は違った。「踏んだらあかんから、足元を見る。打球から目を切る練習になります」。甲子園の外野は広く、ワナもある。背走で捕る。時には白球が観客と重なり、行方を見失う。だから練習で、わざと目を切らせる。社コーチ時代に師事した森脇監督直伝の練習だった。

「基本的なことを教えていただいて、自分で指導しながらアップデートした」

雨上がりの3月上旬、選手は塁上の足の運び方を動画で見てから駐車場へ。入念に足の動きを確認していた。「左足がフロントステップになっていた。サイドステップさせたい。(両足が)クロスすると(帰塁で)素早く戻れない」。ゼロコンマ数秒のムダすら削ろうとする。

グラウンドはぬかるむが室内練習場はない。だが、福村は「雨が降ったときの練習の方が、僕は大事だと思っています。他のチームと差がつく」と言う。アイデアマンの本領だ。この日はテーマ別8カ所打撃を行っていた。

<1>テニスボール打ちハーフ打撃3種 全球打ち、選球打ち、低め見逃し打撃

<2>バント練習2種 マシンの速球とスライダーを

<3>連続ティー打撃

<4>145キロマシン打撃

<5>走者付きゴロゴー打撃 打者は転がし、三塁走者がスタートを切る練習だ。昨秋の近畿大会は市和歌山に惜敗。エース小園の大会唯一の失点となる先制点をゴロゴー(ゴロ判断で本塁突入の作戦)で奪った。

福村は加古川北(兵庫)で08年夏、11年春に甲子園へ導いた。14年から東播磨を率い「走塁にこだわってやっています。全力疾走は誰でもできる」と話す。ナインのベースランニングを見て、気づくことがある。

一塁を蹴って二塁に向かう直前、大回りせず直角に回る。福村の教えだ。「ベースの辺を踏みなさい」。角を踏めば、つま先は二塁方向より外野方向にズレる。推進力も逃げてしまう。辺を踏めば、つま先は進行方向へ。着地の反発力をスピードに変える。原正宗主将(2年)も「最短距離のベース回りです。固定されているベースの反発力を使う。初めて聞く話でした」と話す。福村は森脇理論をアレンジしながら、動きを細やかに作る。

超高校級のエースや大砲はいない。それでも、知恵を絞り、公立校の戦法が光る。福村は言う。「僕らは公立高校でいかに工夫するか。いろんな練習がありますが、基本は絶対に外しません」。多彩な練習法に自負心がにじむ。(敬称略)

 

◆東播磨の走攻守「十一変化」メニュー

【守備】

<1>地雷ノック

【攻撃】

<2>テニスボールハーフ打撃全球打ち

<3>テニスボールハーフ打撃選球打ち

<4>テニスボールハーフ打撃低め見逃し打撃

<5>バント練習速球

<6>バント練習スライダー

<7>連続ティー打撃

<8>145キロマシン打撃

<9>走者付きゴロゴー打撃

【走塁】

<10>駐車場走塁 

※リードのステップ確認

<11>ベースランニング直角回り