第93回選抜高校野球大会(甲子園)が19日にいよいよ開幕する。開会式での選手宣誓を務める仙台育英(宮城)・島貫丞(じょう)主将(2年)は、11年の創志学園(岡山)・野山慎介主将、12年の石巻工(宮城)・阿部翔人主将(ともに当時)の選手宣誓の言葉を、一部引用することを決めた。昨年はコロナ禍でセンバツが消えた。そして今年は東日本大震災から10年。忘れてはいけない先輩球児たちの思いを後世へつなぐため、春の聖地で力強く発信する。

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思いを引き継ぎ、この先の10年、20年へつなぐ。島貫主将は「震災から10年」を、宣誓文の1つの大きなテーマに掲げた。言葉を考える中、東日本大震災が発生した11年センバツの創志学園・野山主将、翌12年の石巻工・阿部主将の宣誓を映像で何度も見返した。胸に刺さった先輩球児の決意。「10年前のことを思い出しながら、そこからの学び、ここまでの歩みを、自分の言葉で伝えたいと思った」。震災を風化させないためにも、受け継がなければならないものがある。2人の言葉を一部引用することに決めた。

被災したから、分かることがある。福島市出身。11年は福島・湯野小の1年生だった。震災後、父は仕事の関係で福島に残り、母と姉の3人で山形・長井市に避難。アパートを借り、約半年間ほど暮らした。それまで日課だった父との野球の練習は出来なくなった。「(父と)キャッチボールをしたいと思うことがあった。福島の友達と遊びたいと思ったり」。だからこそ、使命感を持って言う。「節目の年に選手宣誓ができる。被災した方々に、言葉で勇気と感動を与えたい」。

宣誓文に入れる言葉は、チームメートからも募った。2月23日の抽選会で日本高野連の八田会長が掲げた3K(感謝、感動、希望)や、昨春センバツが中止になった3年生の思いなど、たくさんの案を出し合った。須江航監督(37)とは「(東日本大震災から)10年間の時の流れ」などを話し合い、伝えたい言葉が固まった。「練習は順調です。本番までに細かいところを修正していきます」。待ちわびた球児の春。幕開けを、力強く誓う。【佐藤究】

<11年:創志学園(岡山)・野山慎介主将>

宣誓。私たちは16年前、阪神・淡路大震災の年に生まれました。今、東日本大震災で多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです。被災地ではすべての方々が一丸となり、仲間とともに頑張っておられます。人は、仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています。私たちに今できること。それはこの大会を精いっぱい元気を出して戦うことです。がんばろう!日本。生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。

<12年:石巻工(宮城)・阿部翔人主将>

宣誓。東日本大震災から1年。日本は復興の真っ最中です。被災された方々の中には、苦しくて心の整理がつかず、今も当時のことや亡くなられた方を忘れられず、悲しみに暮れている方がたくさんいます。人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは、苦しくてつらいことです。しかし、日本が1つになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています。だからこそ、日本中に届けます。感動、勇気、そして笑顔。見せましょう、日本の底力、絆を。我々、高校球児ができること。それは、全力で戦い抜き、最後まで諦めないことです。今、野球ができることに感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。