「ロケット四天王」の大トリで登場したプロ注目の最速151キロ右腕、中京大中京(愛知)の畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ)投手(3年)が12奪三振完封で、甲子園デビュー戦を飾った。同校の1学年先輩で昨秋ドラフト1位で中日に入団した高橋宏斗投手(18)に授かった言葉を胸に発奮した。天理(奈良)の193センチ右腕、達孝太投手(3年)は、初戦の161球完投から中4日で2安打完封。仙台育英(宮城)とともに8強進出を決めた。

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これが憧れのマウンドなのか。初めて黒土を踏んだ畔柳は武者震いした。以前に1学年上の高橋宏から掛けられた言葉が脳裏をよぎる。「甲子園のマウンドは投げやすくて素晴らしいぞ。思い切り楽しめ。置きに行かず、力んでもいいから思い切り投げろよ」。2回2死三塁。苅部に内角高め145キロ速球で空を切らせて外角低め速球で見逃し三振。対角線の配球が光る。

3回は昨秋、高橋宏から学んだチェンジアップで黒須を空振り三振。甲子園デビューで12奪三振の完封を演じた。9回に球場表示最速の147キロ。この日、ヤクルトのスピードガンは149キロで馬力も証明した。高橋源一郎監督(41)は「(高橋宏と)タイプが違います。力投派になる。遜色ない」と高く評価した。

背負うものがある者は強い。朝、甲子園に向かうバスのなかで大切な人を思った。19年1月に72歳で亡くなった祖母の畔柳路子さんだった。「絶対に甲子園で優勝するよ。夢だった目標のスタートラインに立つよ」。子どもの頃、愛知・豊田市内の自宅近くで練習。打撃のトスを上げてくれたおばあちゃんだった。別れの日、ひつぎには18年に選出されたU15日本代表のタオルを入れた。必ずや頂点に立つ。心の中で唱え続けた。

甲子園は生きる道だ。09年8月12日。初めて、この場所に来た日だ。龍谷大平安(京都)に完勝。全国制覇に導いたエースで4番の堂林翔太(現広島)に憧れた。20年8月12日。甲子園交流試合で150キロ台を連発する高橋宏の姿を客席で見た。仲間に「宏斗さんみたいに取り上げてもらうためにもいまやらないといけない」と言い、発奮した。

この日、投手板の踏み位置は1回の一塁側から回を追うと三塁側へ。「(一塁側は)体が倒れて抜けてしまう」。無走者でもクイック。わざと高め速球で空振りを奪う。巧みに修正し、したたかに抑える。エースの姿だった。【酒井俊作】

◆畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ)2003年(平15)5月3日生まれ、愛知・豊田市出身。竹村小1年から豊田リトルで野球を始め、竜神中ではSASUKE名古屋ヤングに所属。U15日本代表に選出された。中京大中京では2年秋からエースで愛知県大会、東海大会を制した。球種は直球、カーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップ。好きなプロ野球選手は楽天則本昂。趣味は釣り。177センチ、87キロ。右投げ右打ち。家族は両親と姉。

◆中京大中京が春通算最多勝利 中京大中京はセンバツ通算56勝目。東邦に並び、学校別勝利の1位に返り咲いた。

◆中京大中京の完封勝ち 1人の投手で完封したのは春夏を通じ83年夏の野中徹博(対宇都宮南)以来。同校投手のセンバツでの2桁奪三振完封は、62年林俊彦(対出雲産、対岐阜=各11奪三振)以来59年ぶり。