<高校野球兵庫大会:甲南4-2明石北>◇25日◇1回戦◇ウインク球場

高校野球には勝者にも敗者にもドラマがある。日刊スポーツでは今夏、随時連載「BIG LOSER」で敗れし者の隠れたストーリーにスポットをあてる。

    ◇    ◇    ◇

明石北は開幕試合で敗れ、近畿で最も短い夏となった。

2回から8回まで二塁を踏めないまま0-4で9回へ。完封がちらつく中、1死から一、二塁をつくり、3番・山名遼外野手(3年)が左中間へ適時二塁打を放った。主将の一打で相手先発をマウンドから降ろし、2番手から内野ゴロの間にさらに1点。最終回に刻んだ「2」にチームの意地がこもった。

「9番三塁」の遠藤晴人内野手(3年)は先制点を許した判断を悔やんだ。3回1死三塁で、三ゴロを一塁に送球。本塁も間に合うタイミングだった。「まだ3回だったしアウトが欲しかった。僕の未熟なところが出た」。春の県大会も自身の失策で決勝点を献上していた。絶望からはい上がってきた努力家は、その後は邪飛に飛び込む美技も見せ「負けたけど楽しかった」と涙をぬぐった。

3年生部員は5人。この日のスタメンは3年生4人、2年生4人、1年生1人だった。遠藤は「スタメンは半分以上が下級生でした。みんな緊張してたと思うんですけど、緊張を感じさせないプレーをしてくれて。先輩ですけど、憧れるような後輩です」と胸を張った。少人数で練習のやりくりで難しい部分もあったが、上下関係にとらわれない雰囲気がチームにはある。

「距離感が近いですね。同い年みたいで仲のいいチームだと思います。思ったことはどんな口調でも伝え合おうと話していて。そのおかげで『寝とんか』とか厳しいことも言われましたけど」。苦笑いして振り返ったこれまでの日々。調子が上がらず苦しんだ時期もあったが、毎日40分間の朝練は欠かさなかった。「1個1個課題をつぶさないと不安になるので。課題が分かったら、次の朝練ですぐに直すようにしてました」。

結果は1回戦負けだった。遠藤は「いい終わり方ができた」と言い、今後は大学受験に向かう。今は野球を続けることは考えていない。ただ、笑って続けた。「大学に入ったらたぶん(野球を)やりたくなると思うので。そのときはまたやります」。涙はすっかり乾いていた。1時間41分のラストゲームが、また野球熱をたきつけてくれるはずだ。【竹本穂乃加】