大阪電通大高の最速148キロ右腕・的場吏玖(りく、3年)が、2安打5奪三振2失点完投で夏の初戦を突破した。「1日米12合食い」という驚異の“食育”で成長し、春の大阪府大会で関大北陽から20奪三振、大阪桐蔭を8回4安打3失点に封じた男が“強豪食い”を狙う。

的場が5回から変身した。185センチの長身、70キロの細身の体から長い右腕をしならせ、ぽんぽん投げる。直球、カットボール、カーブ、スライダー、フォークに加えてスプリット。初回、2回と1点ずつ、先手を取られたのがウソのように終盤5イニングを完全投球で、山田打線を手玉に取った。エースの調子に合わせるように5回裏に同点、7、8回裏にも加点し、逆転勝ちだ。

「緊張しました。4回あたりからやっとほぐれてきて」。夏の初戦の難しさを肌で感じ、的場が笑った。

地獄の特訓? で急成長した。入学当初は60キロ。昨秋時点でも64キロ。なかなか太らないエースに、岡野穂高監督(25)が指令を出した。「米を食え!」-。

コロナ禍で活動がままならぬ期間があり、部で備蓄した補食用の米が大量に余った。的場は昨年11月から1カ月、朝7時過ぎに登校すると炊飯器で米を炊き、休み時間に食べた。ノルマはなんと「1日12合」。家から持参したレトルトのカレー、サバ缶、TKG用の生卵をおかずに、放課後の練習までに食べ切る-。

「苦痛でした。でも、おかげで下半身ががっちりして、球速もアップして」。体重は6キロ増の70キロ。球速は135キロから144キロへ。今春の大阪府大会4回戦では強豪・関大北陽を20奪三振で完封し、5回戦はセンバツ覇者の大阪桐蔭に0-5で敗れたものの8回4安打3失点と好投した。

「桐蔭さんにはもっと打たれると思った。でも、北陽さんの時みたいにベストピッチできたら…自信があります」。

大阪・寝屋川二中時代は軟式の「ジュニアセブン」に所属したが、高校で野球をするつもりはなかった。同じ寝屋川出身の岡野監督がヒョロッとしたたたずまいに「センスがいい」と声をかけ、埋もれかけた素材が日の目を見た。

夏の大会直前には阪南大高との練習試合で最速148キロが出た。「まだ細いし、力もないから」と大学進学後のプロ入りを夢見るが、この夏の野心はある。「目標は部で決めた“大阪一”です。桐蔭さんともう1度やりたいです」。大物食いで甲子園へ。的場の夏が始まった。【加藤裕一】