天理(奈良)が山梨学院との接戦を制し“2試合分”の喜びに浸った。戸井零士(れいじ)主将(3年)の2本の二塁打から2点を挙げ、エース南沢佑音(ゆうと、3年)が1失点完投。奈良大会決勝はコロナ禍に苦しんだ対戦相手の生駒に配慮しガッツポーズを控えたが、この日は5年ぶりの夏1勝を喜んだ。夏の甲子園通算49勝目となり、PL学園(大阪)を抜いて歴代単独4位に浮上した。

    ◇    ◇    ◇

接戦を勝ちきったその先に“2試合分”の喜びが待っていた。9回。二塁の藤森が打者走者をアウトにするのを見届けて、南沢は捕手の山村と手を握り合った。戸井が、内藤が駆け寄る。「校歌、歌えるな!」。笑顔で肩をたたき合った。

山梨学院の好投手、山田を捉えたのは「新旧4番」だ。4回1死。奈良大会の4番・内藤に代わり、甲子園では3番から4番に座ったドラフト候補の戸井が左翼線に二塁打。2死二塁で内藤がスライダーを中前に運び、先制点を奪った。6回2死から戸井が2打席連続二塁打を放ち、今度は山村が続いた。「後ろに内藤がいる。内藤につなごう」と思った結果が適時二塁打に。前4番への信頼が、2点目を生み出した。

「生駒の分まで頑張ろう、と思っていました」と戸井は明かした。試合前、ナインが見上げたアルプスには「つなぐ心ひとつに」のまっさらな横断幕。奈良決勝を戦った生駒野球部保護者会からの、激励の贈り物だった。

コロナ禍に見舞われ、生駒は決勝にベストの布陣で臨めなかった。事情を知っていた天理ナインは、試合後のガッツポーズを封印。5年ぶりの夏切符の喜びより、必死でメンバーをそろえ、21点差にもめげずに戦い抜いた相手への敬意を選んだ。その行動、態度に、生駒ナインの家族の心も救われた。感謝を込め、保護者会が横断幕を作った。生駒の野球部長からその思いを伝え聞いた中村良二監督(54)は、ナインの前で横断幕を広げ「ありがたいことやな。一生懸命プレーしよう」と呼びかけて臨んだ初戦だった。

奈良で封印した感情を、この日は解き放った。得点が入るたび、全員で喜び合った。「みんなが喜べるシーンを(甲子園で)できないかなと思っていた。今日がその試合になれてよかったです」と振り返った中村監督自身が、笑顔、また笑顔だった。2校分の夏が、幕を開けた。【堀まどか】

▽天理・内藤大翔内野手(3年=サッカーのJ1鹿島などで活躍した父就行さんの激励も受け、先制打)「父からは電話で『思いきりやれよ』と言われていました。ランナーをかえそうという気持ちだけでした」

▽天理・松本大和内野手(1年=2番・二塁で先発し初回の初打席で初安打)「うまく捉えられてよかったです。(同じ1年の)大谷とは、2人で1試合3安打を目標にしてやっています」

▽日本ハム山田アマスカウト顧問(天理・戸井について)「バットがよく振れている。ミート力もあって、飛ばせる。守備もよく動けていた」

◆奈良県大会決勝VTR 強豪天理に、奈良大会決勝初進出の生駒が挑んだ。だが、生駒の部員に新型コロナ陽性者や体調不良者が続出。登録メンバー20人から12人を変更し、決勝は初めてベンチ入りした選手が11人。先発した1年生投手は大会初出場だった。天理は生駒の異変を知っていたが、中村監督は「手を抜く方が失礼。全力で戦え」とナインに指示。21-0で圧勝した。ただ、試合後はマウンドに集まらずに整列するなど生駒を気遣った。

◆無失策試合 山梨学院-天理戦で記録。今大会初めて。

 

【写真もたっぷり甲子園詳細】市船橋がサヨナラ勝ちで25年ぶり勝利 海星、天理、敦賀気比も初戦突破