「ダラダラするなら練習から出て行け!」。市川口(埼玉)のグラウンドに斎藤弘樹主将(3年)の厳しいゲキが飛ぶ。市川口は巨人の斎藤雅樹投手コーチ(46)を輩出した伝統校だ。

 「ドラ1ですごい投手だったとは聞いているんですけど…」。斎藤は、巨人のエースとして通算180勝を挙げた偉大な先輩の現役時代を知らない。「練習試合で、相手校のお父さんやお母さん方に斎藤雅樹の母校ね。すごいわねと言われ、正直プレッシャーです」と、名前が1文字違いの主将は苦笑いする。

 今春、3年ぶりに県大会でベスト8に入った。その立役者となったのは「7番一塁」の斎藤だった。センバツに出場した浦和学院との3回戦。1点を追う4回、満塁のチャンスで斎藤に打席が回ってきた。「ヤマを張っていた」と内角の直球を打ち返し走者一掃の二塁打。チームは勝ち越し、そのまま逃げ切った。

 チャンスに強い打撃の裏には努力がある。2年の春に宮井信久コーチ(46)のすすめで、右打ちから左打ちに転向した。必死にバットを振った。スイングのスピードを上げるため1日500本以上の素振りを繰り返し、感覚を徐々につかんだ。今では左打ちに自信を見せる。

 「斎藤雅樹さんが卒業されて何十年もたっている。そこから弱くなったともう言わせない」。82年夏、偉大なOBは埼玉大会の決勝で敗れた。斎藤“弘”樹が率いる市川口が悲願の甲子園出場を目指す。