<高校野球宮城大会:古川工3-1東北>◇25日◇準決勝

 古川工が東北を破った!

 主将の今野晴貴左翼手(3年)が1回に決勝二塁打。病床の母栄子さん(50)に同校初の決勝をプレゼントした。利府は7-2で仙台商に勝利し、7年ぶり4度目の決勝進出。宮城の公立校同士の決勝戦は、02年の仙台西-柴田以来。1県1代表制となった76年以降3度目となる。

 今野晴が生まれた日から病院での生活を余儀なくされた母へ、どうしても贈りたい勝利だった。

 優勝の瞬間のようだった。無理もない。東北に勝ったのだ。エース山田大貴(3年)が最後の打者を一飛に打ち取ると、マウンドに選手全員が駆け寄る。エースはもみくしゃにされながらも、突き上げた腕を下ろすことはなかった。

 金星の余韻が残る中、今野晴主将は静かな表情だった。口を真一文字に閉じ、激しい試合を戦った東北・上村健人主将(3年)と握手を交わした。震災後、今春センバツの戦いぶりに勇気をもらった上村に敬意を表した。

 初回に決めた。2死二塁、5球目を振り切り左翼越えの先制二塁打を放った。安打はその1本だけだったが、これが決勝点となった。4回には死球で出塁し、2点目のホームを踏んだ。

 93年7月6日から丸18年間、母栄子さんは入院している。今野を出産した数時間後、容体が悪化。後遺症があり自力での生活ができなくなった。そのため母に野球の試合を見せたことは1度もない。今野晴は「なんとかテレビ放送がある試合まで勝ち進みたかった」。野球で忙しいが、お盆などには必ず見舞いに行く。「会話はできないけど、笑ってくれるんです」。

 父敦(つとむ)さん(54)にも感謝している。「おやじが一番苦しかったと思う。料理も本当にうまいんです。肉じゃがとかスパゲティとか。幸せでした」と満面の笑みだった。

 あと1つ、大仕事が残っている。最愛の両親へ甲子園出場のプレゼント。「甲子園を決めたらぜひ、母に会いたい」。3月27日、危篤状態から一命を取り留めた。18年間ともに闘ってきた。病床からも見られる甲子園の全国放送で恩返ししたい。この世に産んでくれた母のために。【三須一紀】