いよいよ球児の夏が本格到来です。沖縄、北海道で始まっている第94回全国高校野球選手権(8月8日開幕、甲子園)の地方大会が、今週末から全国各地でスタート。今大会から大幅に結成条件が緩和された「連合チーム」を取り上げます。試合ができる喜び、新たに生じた苦労などを紹介します。

 「やる気がないならやめちまえ!」。文字にすると過激だが、愛情ある叱咤(しった)激励だ。五日市・瑞穂農芸(西東京)の井上雅章監督(瑞穂農芸)は、合同練習で自校の選手にこう声をかけた。パートナー校の五日市の選手には「そこの動きは違うな。もう1歩前に出ないと」と声のトーンが穏やかになる。「もう遠慮していない」と言うが、完全に同じとはいかないようだ。

 福岡・自由の森学園・上尾鷹の台(埼玉)の西山忠部長(福岡監督)も語気の違いを認める。「どうしても接している時間が違うので」。やはり、連合相手の選手には厳しい言葉を投げかけづらい。

 ほとんどのチームが合同練習は土日だけだが、選手たちは短期間で遠慮が消える。昼食時に交じり合い、野球を中心にテレビ番組やアイドルの話にも花を咲かせる。

 五日市の吉村州平主将(3年)は「名字から名前、名前からあだ名で呼ぶようになった」という。練習だけを続けてきた苦労を知る者同士の連帯感があり、打ち解けるのに時間はかからなかった。有恒・安塚(新潟)の葭原(よしはら)太一主将(3年)は「携帯番号とメールアドレスを聞いて、コミュニケーションを円滑にした」と練習日以外でも連絡を取り合う。

 単独校で出場も、実質は連合というチームもある。部員8人の京北(東東京)は、同13人の系列校・京北白山から2選手を借りた。同じ敷地で練習している間柄。両校を見ていた京北・堀口雅司監督が性格、ポジションを総合的に判断し人選。助っ人の服部和寛捕手、北修造外野手(ともに1年)は「最初は少し戸惑ったけれど、いつも一緒に練習している仲間だし、必要とされるのはうれしい」と溶け込んでいる。

 合同練習で新たな課題が浮上したケースも多い。少人数では不可能だった連係プレーに時間を割かざるを得ない。送りバントが多い高校野球では投内連係の上達は必須。サインの簡素化など対応に迫られる。移動に時間と費用もかかる。約40キロ離れる大網・暁星国際(千葉)は電車とタクシーを乗り継ぐ。4校合同の足士新幕(あしししんまく)連合(北北海道)は、中心の士幌で練習も距離に悩まされた。

 高松和博部長(士幌監督)

 士幌は公用車が数台あり移動に使った。それでも40~50キロの往復は監督、保護者に精神的な負担になった。他校は自家用車を公用車申請。移動手段は原則公共交通機関とはいえ、路線バスもない地域はどうするのか。

 同連合は既に十勝地区大会で敗れたが、提言は今後への示唆に富む。

 すべてが解決されたわけではないが、ひたすら練習に励んできた選手たちは、試合ができる喜びにあふれる。ポジションは実力主義で決めたチームが多い。2年間2人で練習していた有恒・安塚の小平翔平主将(安塚3年)は「せっかくの野球部の歴史をなくしたくなかった。ありがたいという思いでいっぱい」と高校初の公式戦に臨む。

 連合条件緩和から1カ月強。「最後の夏」を経験できなかった多数の先輩の分まで、新たな球史を刻み込む。【特別取材班】

 ◆連合チーム

 日本高野連は5月24日の理事会で、部員不足の高校を対象に連合チームの公式戦参戦条件を緩和した。これまで学校の統廃合に伴う部員減、東日本大震災の影響を受けた学校に対し、連合結成を認めていた。しかし、昨年度は部員不足で春、夏、秋の公式戦で2大会以上に出場できなかった高校が全国で96校に上った。このため部員が8人以下の学校同士は同一都道府県内で連合チーム結成が認められ、適当な相手校が見つからない高校は近隣校から選手を借り、単独チームとしての出場を認めた。