<高校野球静岡大会:金谷9-4藤枝東>◇8日◇1回戦◇焼津

 監督も主将も声をそろえて「奇跡」と言った。金谷が8回に一気に6点を奪い藤枝東に逆転勝ちした。4月に部員の不祥事のため受けた1カ月の対外試合禁止処分を乗り越えての勝利だった。

 3年ぶりに流れるはずの金谷の校歌が機材の不調で聞こえない。橋本衛監督(51)は本部の了解を得て、スタンドの応援団に合図を送るとリーダーが手を広げ、吹奏楽の生演奏が始まった。実力差が明らかな藤枝東に大勝した13人にはアクシデントがもたらした、最高の贈り物だった。

 4月、10人の部員のうち主将を含む6人の喫煙が発覚した。橋本監督は「悪いことは悪いと受け止めよう」と、新入生の練習開始も遅らせて、奉仕活動に携わるなど部の立て直しを図った。高野連からも1カ月の対外試合禁止処分を受けた。その後、2人の復帰を許し、7人の新入部員を迎えた。練習試合の相手は控えメンバー主体がほとんどなのに、約20試合で3勝しかできなかった。

 藤枝東にも2-4で負けていた。「苦しいなら、乗り越えろ」。橋本監督の怒声に13人は奮起した。継投策は左腕鈴木力斗(3年)と不祥事後に主将を買って出た池谷光司内野手(3年)が交互に行い、この日も2度ずつ登板した。降板した鈴木はセオリー無視で遊撃を守り、器用に併殺まで完成させた。攻撃陣は盗塁死、走塁死、サインの見落としなどミスを連発しながら、不思議なほど回を重ねるごとに成長した。集大成は8回、相手ミスもあったが6者連続得点で逆転した。

 橋本監督は「奇跡です」と言った。最後のマウンドに立っていた池谷も「奇跡です」と笑った。スタンドで今も奉仕活動を続ける元部員が見守っていたという。苦しくても、乗り越えられる。メッセージのつまった一戦だった。【久我悟】