<全国高校野球選手権:仙台育英11-10浦和学院>◇10日◇1回戦

 仙台育英(宮城)の歓喜の輪が、カクテル光線に照らされていた。10-10の9回2死一塁。1番熊谷敬宥内野手(3年)が、高めの144キロ直球を左翼線に運び、一塁走者を本塁へ迎え入れた。センバツ王者との打ち合いを制した瞬間、真夏の太陽はとうに沈んでいた。「とにかくうれしい。お菓子をいっぱい食べたい」。大のお菓子好きの切り込み隊長は、全てを出し切った充実感に包まれていた。

 小島撃破の突破口になった。1回、熊谷の右前打を皮切りに6得点。サヨナラ打は2番手の山口から放ったが、小島の直球を捉えて3安打した。“持っている男”上林が、この日は5打数無安打3三振。試合後のお立ち台では「記者の方も慣れないでしょうけど、毎回ヒーローが同じなわけじゃないんですよ」とちゃめっ気たっぷりに話した。

 OBのヤクルト由規に憧れていたが「周りを見て投手は無理だ」と遊撃手の道を選んだ。宮城大会は打率1割9分2厘と不振。6日の練習では佐々木順一朗監督(53)から「勝つ気あるのか」と怒鳴られたが、必死だった。母徳美さん(46)は「普段はクタクタで帰ってきて家では何もしないのに、この夏は素振りをしていた」と振り返る。上林とともに、高校日本代表1次候補26人に入った守備力は健在。この日も難しい打球を軽快に処理し続けた。

 6-1の3回に8失点する厳しい展開だったが、宮城大会でも1回に5失点した2試合をひっくり返してきた。「県大会で苦しんだのが生きている。(上林)誠知は初戦が良くないから周りで何とかしようと言っていた」と熊谷。主砲が打てなくても、浦和学院の春夏連覇を打ち砕いた仙台育英。東北勢の初優勝に向け、弾みがつく大きな1勝だった。【今井恵太】