<高校野球秋田大会:秋田南5-4金足農>◇16日◇3回戦

 第2シードの秋田南が、劇的勝利で6年ぶりの8強だ。2-4で迎えた9回裏2死満塁、カウント2-2と追い込まれた主将の4番伊藤流馬一塁手(3年)が同点中前打。さらに一、二塁から5番加藤慶一郎捕手(3年)が右中間に二塁打を放ち、5-4で前年優勝の金足農にサヨナラ勝ちした。

 9回裏2死二、三塁。秋田南のベンチの選手は涙していた。ネクストサークルの伊藤流主将も、崩れんばかりの表情だった。「今までやってきた、きつい練習を思い出した」。2年半の思いが走馬灯のように頭を巡った。3番諸井翔二塁手(3年)が四球でつなぐ。熱いものがこぼれた。

 しばしの時間が感情の高ぶりを抑えた。満塁で打席に向かうと、相手投手が代わった。「涙をふいていけよ」。野中仁史監督(38)の声が聞こえた。「もっと野球をやりたい。打つしかない。開き直った」。主将の目が鋭さを取り戻した。残り1球と追い込まれても「冷静に球を見られた」。一振りで起死回生の一打にした。最後は「流馬がつないでくれた。泣きそうだった」という加藤が決めた。伊藤流が3打点、加藤が2打点と、4番と5番の2人で全得点を挙げた。

 人一倍、悔しい思いをしてきた学年だった。1年夏には、先輩たちが3回戦でノーヒットノーランを喫した。昨秋は優勝候補に挙げられながら、県3位決定戦で敗退しセンバツの道を絶たれた。冬場に走り込みとジャンプトレーニングで徹底的に下半身を鍛え抜き、雪辱を胸に迎えた春。だが県決勝で明桜に、0-20と最多得点を奪われる屈辱の敗北。東北大会でも3-10で青森山田にコールド負けと、辛酸をなめ続けた。

 「やるしかないぞ。開き直れ」。東北大会後、野中監督は、そう選手に伝えたという。土壇場でその姿は出た。劇的勝利で笑顔と涙が交錯する輪の中、主将の重責を背負い続ける伊藤流は、喜びにむせび泣いた。【清水智彦】