<高校野球秋田大会>◇15日◇1回戦

 この日開幕の秋田では、難聴のエース小松佑樹(3年)擁する五城目が角館に5-8で敗れ、同じハンディを持つ日本ハム石井への恩返しはならなかった。

 ハンディを乗り越え、マウンドに立ち続けた小松の夏が終わった。校歌を歌う相手を前にすすり泣く仲間たちの隣で立ち尽くした。

 先天性感音性難聴のため、聴力はほとんどない。幾度となく迎えたピンチの場面では、ナインが小松の肩をたたき、頭をなで、支えた。

 頼ってばかりはいられない。1-4の1回裏無死満塁から中越えに2点二塁打を放ち、追撃ののろしを上げた。だが終盤、高めの球が痛打を浴び、勝ち越しを許した。「やっぱり負けるのは悔しい」。搾り出すようにひと言、言った。

 同じ境遇ながら活躍する日本ハム石井の大ファン。何度もファンレターを送った。大会直前、石井からサイン色紙が自宅に届けられた。高野連の規定が、プロ選手からの個人的な寄贈品の授受を認めていないため、夏が終わるまでは川村寿紀監督(44)が保管することになっていた。「憧れの人」のプレゼントを受け取る日がついに来てしまう。喜ぶべきなのか。いや違う。来てほしくはなかった。

 小松の立場を理解するためチームは週1度、発声禁止の「サイレントベースボール」を行ってきた。そんなナインへ、小松は最後に感謝の気持ちを語った。「ありがとう」。返ってきた返事は「お前がいてくれて良かった」。心の奥底まで響き渡った。【湯浅知彦】