<高校野球兵庫大会>◇28日◇準決勝

 神港学園は延長10回3-4で市川に敗れた。懸命に涙をこらえていた伊藤諒介三塁手(3年)の顔が、とうとうゆがんだ。明石球場外で開かれた最後のミーティング。北原光広監督(57)の涙を見た。恩師は「あんたたちを勝たせてやりたかった。このチームを勝たせてやりたかった」と頭を下げた。こらえられなかった。

 甲子園まであと2勝。1点を追う8回2死無走者の打席で、通算95号を伊藤は狙った。「あそこは長打がほしかった」。だが白球は右翼手のグラブに吸い込まれた。9回のスクイズで追いついたが、延長10回、市川のサヨナラ打が右越えに弾んだ。明石で迎えた終幕に、試合直後は「実感がわかない」とつぶやいた。

 昨秋は腰痛で思うような打撃が出来ず。センバツ1回戦・高知戦での自身甲子園1号は、近畿4強で大会に連れて来てくれた仲間への御礼弾だった。高校生の本塁打王になっても、慢心が見えれば監督にしかりとばされ、また懸命にバットを振った。打てなくて悔しくてまた必死に練習する伊藤を知るから、周囲も変わらなかった。この夏、26打数で本塁打2本を含む13安打7打点。前人未到の94本を残しても、伊藤はいつも「神港の伊藤」だった。

 29日からは新チームの練習に参加する。進学を希望する法大で、1年目から三塁の定位置を狙う。「この負けは次への始まりですから」。また伊藤の挑戦が始まる。【堀まどか】