<全国高校野球選手権:仙台育英6-5開星>◇11日◇1回戦

 仙台育英(宮城)は9回2死から走者なしから3点を奪い、開星(島根)に逆転勝ちした。

 1点差に追い上げた9回2死満塁。仙台育英の2番日野は、中堅へ飛球を上げた。誰もが終わったと思った次の瞬間、大観衆の驚きの声が球場に響いた。落下地点に入っていたはずの開星の中堅手が落球した。二、三塁走者が土煙を上げながら一気に生還。「走者がホームインしてから『回れ~』と言っちゃいました」。佐々木順一朗監督(50)が興奮して振り返るほど、まさかの逆転劇だった。

 その裏にも神懸かったプレーが飛び出した。9回2死一、二塁。開星の1番糸原の打球は左中間へ一直線。マウンドの田中は「真っ二つだ」と、サヨナラ負けを覚悟するほどの打球だった。だが、試合途中に一塁から左翼に回っていた三瓶は違った。糸原対策で守備位置を定位置から3歩、中堅寄りに変えていた。「絶対に負けない」と打球を追い、ダイビングキャッチ。劇的な幕切れとなった。

 日野も、三瓶も、今春からレギュラーになった。日野は内野、外野、代打要員、三塁コーチと“仕事場”を転々とした。春、佐々木監督から「ポジションはどこなんだ」と聞かれ迷わず「球場全体です」と答えた。三瓶は今春地区大会で初めて左翼手を経験。その前は遊撃手だったため「買うのもあれかな」と一塁ミットと左翼用グラブは持っていない。スタンドで応援する仲間から借りていた。

 2点を追う9回2死走者なしからひっくり返し、つかんだ春夏通算30勝目。佐々木監督は「負ける雰囲気がなかった。みんなの明るさが大きかった」と言う。日野の練習用帽子には「地球温暖化はオレのせい」と書かれている。それほど声を出しているという自負がある。「努力ではい上がってきた2人」(佐々木監督)の頑張りに野球の神様が、ごほうびを与えたのかもしれない。【三須一紀】