今季のワールドシリーズはレッドソックスがドジャースを退け、5年ぶり9回目の世界一の座に就いて終了しました。名門同士の対決とあって、全米中でも注目を集めましたが、終わってみると、少しばかり残念な試合内容でした。

確かに、第3戦で延長ワールドシリーズ史上最長となる延長18回、7時間20分の戦いを演じるなど、新聞の見出し的に表現すると「大熱戦」だったかもしれません。延長15回から救援し、2回無失点5奪三振と力投したドジャース前田健太をはじめ、両軍の各9投手が踏ん張ったことは間違いありません。その一方で、淡泊で工夫のかけらさえ見えない攻撃陣の粗さが、異例の長時間試合を招いたことも否定できません。

近年のメジャーでは、若くて学力優秀なGMをはじめ、細かなデータ分析を得意とするエグゼクティブがフロント首脳に座り、数値に基づく戦術、戦略が主流となっています。公式戦は162試合の長丁場ですから、サンプル数の多いデータで傾向を弾き出し、活用することで、ある一定の効果をもたらすはずです。

ただ、その結果、「フライボール革命」という、かなり厄介な現象を生みだしてしまいました。「革命」などと大げさな表現になっていますが、簡単に言ってしまえば、強引なアッパースイングでフライを打ち、少しでも本塁打の可能性を高めようと躍起になっているだけです。

ワールドシリーズ第3戦は、まさにその典型でした。無死から走者が出ても、ドジャースの選手は下位打線であろうとフルスイングの連続。凡飛、三振ばかりで、走者を得点圏にすら進められないのですから、試合が動くはずもありません。英語では「ラインアップ」と言われますが、「線」を無視するかのような攻撃には、まったく魅力を感じません。

もちろん、豪快なフルスイングが悪いというわけではありません。やみくもに送りバントをすべきと論じるつもりもありません。ただ、野球はチームとして得点を争うスポーツですから、刻々と変化する試合状況もあれば、選手によって打線の中での役割も違うはずです。もし、細かなデータを重要視するのであれば、「無死一塁から得点できる最高確率の戦術」を弾き出して実行すべきでしょう。

レッドソックスの主砲で、今季、打率3割3分、43本塁打、130打点を挙げたJD・マルティネスは、近年の風潮に警鐘を鳴らしています。

「我々はすべてを空中に打って、サク越えを狙ったりはしない。(フライボール革命は)最近の打者に共通するミステークだと感じる」。

広角に打ち分け、時には進塁打でチーム打撃に徹しつつ、超ハイレベルな成績を残したスラッガーの言葉だけに説得力があります。

何よりも、世界一という結果が、野球に不可欠な基本を物語っているような気がします。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)