鯉をさばかせたら天下一品! 阪神能見篤史投手(36)がまたも赤ヘル打線をねじ伏せた。8回に2ランを許すまで、涼しげに快投。今季広島から4個の白星をいただいた。藤浪と並んでチームトップに立つ今季8勝目。通算81勝目となり球団では下柳を抜いた。

 暑気払いにもってこいの快投だった。球威よし、制球よし、テンポよし。能見が絶妙な緩急で赤ヘル打線を惑わせる。見せ場はプレーボール直後だ。1回1死二塁でロサリオと対戦。前夜、2安打2打点の助っ人封じは大きなテーマだ。女房役の鶴岡は語気を強める。「昨日、散々やられている。やり返したい気持ちがあった。ロサリオは打つと乗る」。伏線を張り、じわりと攻め上げる-。完璧なシナリオを描いた。

 初球、いきなり速球で胸元を突く。そしてチェンジアップをアウトローへ。もっとも距離がある対角線をフルに用いて助っ人の目線を動かす。その後はフォークの連投。低めへ。ストライクからボールになる絶妙な境目でストンと落ち、空振り三振を奪った。中西投手コーチも「申し分なかった。ゾーンも良かった。チェンジアップもいいところに決まっていた。最初から最後まで続けられていた」と最敬礼だ。

 8回に会沢に2ランを浴びるまで、堂々の無失点投球だ。チームの連敗を3で止め、自身は今季8勝目をマーク。通算81勝目で阪神では下柳を抜いた。それでも、手放しでは喜ばない。「早い回に点を取ってもらったあとに3人で抑えられて、いいリズムでいけた。最近、中継ぎの方の登板が多い。本当は1人で投げきるのが良かった」。必勝パターンの救援陣を温存できたのは大きな収穫だろう。

 ピカピカの足元に能見の思いがこもっている。登板日の試合前練習を早々に切り上げると、ロッカーの椅子に腰掛け、黙々と黒いスパイクを磨く光景が見られる。淡々と、それでいて細やかにキュッキュッと汚れを取る。勝負へと入っていく作業だろう。日々、新たな勝負に臨む。この日も真新しい2本足で鮮やかなマウンドさばきを披露した。

 前日4日も、この日も同僚よりも先に猛暑のグラウンドへ出て、黙々と汗を流した。暑さに慣れる工夫だ。7月8日の中日戦で今季9敗目を喫して以降、大台の危機を乗り越える自身3連勝。コイキラーぶりを発揮した。準備、技能、心意気…。すべてがパーフェクトな夜だった。【酒井俊作】

 ▼能見は広島戦で今季4勝目。全8勝中半数を稼ぐお得意様だ。通算でも22勝9敗、防御率2・38。マツダスタジアムでも通算11勝4敗、防御率1・59と好投が続く。なおこの勝利で通算81勝。阪神在籍時では上田次朗、福原と並び13位。左腕に限れば(1)江夏豊159勝(2)山本和行116勝(3)井川慶86勝に次ぎ単独4位。下柳剛80勝を抜いた。