春季の東京6大学リーグ戦では、NHK大越健介氏(54)の母校・東大の連敗記録が大きな話題を集めた。10年秋からのワースト記録が5月23日、ようやく「94」でストップ。最終的には勝ち点を奪えないまま日程を終えたが、大越氏は「1つ勝ったことで、何かが変わると思いますよ」と秋季の奮闘を信じていた。

 言葉の根拠は自身の経験にある。在学中は先発ローテーションの柱として、早大から幾度となく勝ち点をもぎ取った「早稲田キラー」だった。4年間のリーグ戦対戦成績は4勝4敗。東京6大学の雄を相手に、なぜ五分に渡り合うことができたのか。「うーん。そうだなあ…。向こうが、苦手意識のわなに入っちゃったんでしょうね」。少しだけ考え込んだ後に、興味深い分析を披露してくれた。

 「早稲田は6大学の覇者として、負けられない気持ちが強かったんだと思います。1回負けてからは、僕と対戦する時は明らかに固くなっていた。もう負けられないと。そうなると心理的に有利ですよね。相手が1度わなにはまってしまえば、東大でも連勝は不可能ではないんです」

 1つの白星が潮目を変えた。「実績で劣る」という現実が武器になる瞬間があった。だからこそ「何かが変わるはず」と胸を奮わせた。4年間の集大成をぶつける秋季リーグ戦。かつての名投手は、温かい目で後輩たちを見守っている。【松本岳志】