聖地で敗戦が続き悔し涙に暮れた虎党も、この夜ばかりはうれし涙を流したに違いない。阪神秋山拓巳投手(25)が4年ぶりの勝利を挙げた。DeNA打線を相手に6回途中3安打1失点の好投。12年6月30日ヤクルト戦以来、実に1539日ぶりの白星を手にした。「長かった。勝てて良かった」-。なかなか踏み出せなかった1歩を7年目右腕が刻んだ。

 忘れかけていた感覚だった。秋山は勝利の瞬間、真一文字に結んでいた口をフッと緩め、口角を上げた。4年ぶり。1539日ぶりの白星だ。前回勝ったのは12年6月30日までさかのぼる。久々のお立ち台で、素直な心情がこぼれた。

 「恥ずかしいんですけど、勝てて良かったです。久しぶりというのもあって、本当に気持ち良かったです」

 思い返せば6年前、鮮烈デビューを飾った。高卒1年目にいきなり4勝。華々しいプロ野球生活が待っているものと誰もが思った。だが、苦難の道のりが続いた。以降は2軍では結果が出ても1軍で結果の出せない日々。この日も会心のヒットを放ったように高校通算48本塁打をマークし「伊予ゴジラ」と呼ばれた打力から打者転向を勧める声もあった。だが考える間もなく首を横に振った。「ピッチャーとして結果を残したいから」。まだ、できる-。投手としてのこだわりが秋山にはあった。

 最速151キロをたたき出した直球も、昨年は130キロ後半がほとんどだった。それでも「やっぱり自分は直球で勝負したい思いが強い」とこだわった。走り込みや体幹強化を徹底的に行い下半身を強化。当時2軍担当だった香田投手コーチの教えで、同じ直球系のシュートも習得したことで投球の幅は広がった。

 この日、こだわり続け、磨き上げた直球がうなりを上げた。最速147キロを計測。4回にハマの主砲筒香を、力勝負で見逃し三振に抑えた。「強打者に真っすぐで勝負できたというのは自信にしてもいいのかな。そこを求めていきたい」。4年分の思いがこもったストレートだった。

 今季の先発登板はこの日が最後の予定。ラストチャンスで結果を出した秋山の好投はチームにとっても大きな意味を持つ。香田投手コーチは「(来季)選択肢もたくさん広がることはすごくいいことだと思う」。バラ色だった6年前。屈辱にまみれた4年間。25歳にして天国と地獄を味わった男が、復活ののろしを上げた。【梶本長之】