1回表無死一、二塁。得点圏に走者を置いての打席に、西武の3番打者、浅村栄斗内野手(26)が立った。早くも先制か-。そんな期待に、応援のボルテージも上がる。

 鳴り響くチャンステーマ。しかし次の瞬間、声援はどよめきに変わった。

 ソフトバンク先発寺原の初球。浅村は右足を引いてバントの構えに入り、セフティー気味にスタートを切りながら、三塁線を狙って転がした。

 打球は狙いより、やや投手寄りに転がった。マウンドを駆け降りた寺原がさばき、浅村は一塁でアウトになった。しかし二塁走者秋山、一塁走者源田はともに進塁。次の中村の遊ゴロ間に、秋山が生還した。

 中村は「驚きましたよ。みんなも驚いたでしょ。アサはチームで一番打っているバッターだから」と振り返る。浅村はこの時点で、リーグトップの57安打、39打点。前日には節目の通算100本塁打も達成していた。

 バントのサインが出ていたわけでもない。なのになぜ、バントをしたのか。浅村は「とにかく、勝ちたいんです」と切り出した。