強い岩田パパが帰ってきた! 阪神岩田稔投手(33)が2年ぶりの白星を挙げた。今季初昇格して先発したDeNA戦で、5回を3安打2失点。4回には中谷の逆転11号3ランの援護も受け、15年9月20日以来、676日ぶりの勝利を手にした。長い2軍生活で3人の子どもたちを心配させたが、健在を示す会心の白星。左腕の復活は、真夏の逆襲を期すチームにとっても心強い朗報だ。

 岩田はこけた頬を雨でぬらしながら、トラッキー人形をギュッと大事に抱きかかえた。お立ち台では「自分を出し切ろうと思ったけど、フラフラの投球で申し訳ないです」と猛省だ。「力みがすごかった。このまま終わってしまうんじゃないか、という不安もあって…」。今季初登板は5回2失点。15年9月20日ヤクルト戦以来、676日ぶりの白星だと聞き「恥ずかしいですね」と照れ笑いした。

 「もうトラッキー人形は増えないの?」

 昨夏、小学1年生だった長女から問いかけられた。自宅のソファには、過去に甲子園のお立ち台でもらった人形がすべて並べられている。手痛い質問に一瞬たじろぐと、「そっか、父ちゃんは今2軍か。でも大丈夫。また勝てるよ」と慌てて気遣われたという。

 1軍から遠ざかった2年近く、1男2女と出掛ける頻度は増えた。水族館に運動会、トウモロコシ狩り…。小学生低学年用のC級ボールを使い、4人で中継プレーも楽しんだ。「プライベートは充実してるんやけど…」。家族が本当に欲しいモノ、それを理解しているから心が折れなかった。

 「今ここで頑張らずにいつ頑張る」

 京都大仙院、尾関宗園住職の説教を心に留めている。「人生とは毎日が訓練である」で始まる教えは最後、そう締めくくられている。開幕ローテ落ちしても目の前の練習に集中する日々。「死ぬ事以外はかすり傷!」。何度も自分に言い聞かせ、ついに光は差した。

 初夏、岩田は2日に1回のペースで45分間走を練習メニューに入れるようになった。汗だくで体を絞り続けた結果、オフに96キロあった体重は5キロ減の約91キロに。投球時の回転力が増し、かつての宝刀スライダーが再び手元で曲がり始めた。

 この日、DeNA打線は確かにスライダーにてこずっていた。ただ、初回に暴投で先制点を献上。毎回の5四球に加え、ボークもあった。「次はいい内容を見せたい」。勝利の余韻に浸る時間は、人形をそっとソファに飾る瞬間だけになりそうだ。【佐井陽介】