勝負師の本能が打球に乗り移った。「相手バッテリーに厳しいところ攻められている。今年だけでも何回もひっくり返されている」。打席に入れば主軸中の主軸だけに厳しく攻められる。6月18日のロッテ戦でも顔面付近のボールをよけようと打席で倒れ込み右膝を負傷。登録抹消を強いられた。ただ、強打者としての勲章だと自認する。「こういう攻め方をされなくなったら、打者としては終わり。その中で打った、打たれたという戦いがある」と早期復帰の糧にした。

 前日9日も阪神青柳に内角を攻められ、右脇腹に死球を受けた。患部は痛々しく腫れ上がるも「大丈夫」と一言だけ。さらに、この日の2打席目も、2死三塁の好機で初球は内角の胸元を攻められ、のけ反った。「やられっぱなしじゃダメ。勝負なんだから」。次打席での投手強襲は反攻の一打でもあった。わずか4安打と好投していたメッセンジャーを右足首直撃打で“KO”してみせた。

 2戦ぶりの安打は今季3本目、プロ通算75本目の内野安打で大台まで残り3本と迫った。「2000安打を達成した人の中で、俺が一番、内野安打が少ないと思うよ」。技術とパワーを融合させ、外野まで飛ばす打撃で勝負してきた。これもまた好打者の勲章として光る。

 ラッキーな内野安打ではない。勝負の妙を知る主砲が必然的に生み出した一打が、相手投手陣の攻略につながった。鮮やかな逆転勝ちで2位阪神との3連戦の勝ち越しに成功。大記録達成の舞台は広島へと移る。「1位のチームとだから、なんとか勝ち越せるように」と阿部。真っ赤に染まるマツダスタジアムで最後のカウントダウンに入る。【為田聡史】