糸井嘉男外野手(36)のバットが、阪神を救った。敗色濃厚だった0-4の6回に、反撃のノロシを上げる15号2ラン。3-4と1点差に追い上げた9回には1死一、二塁から右前打を放って、二塁走者を同点のホームに迎え入れた。前日26日にベテランの奮起を促した金本監督の期待に応え、FA砲がドローの立役者になった。

 糸井が右手を突き上げて喜びを表現した。3-4と1点ビハインドの9回だ。代打高山の内野安打から1死一、二塁とした場面。1ボールからDeNA山崎康の外角シュートに反応した。右手を精いっぱい伸ばしてつかまえた打球が一、二塁間を破った。二塁走者の江越が生還。土壇場で試合を振り出しに戻した。

 「勝ちたかったんですけど…。どうなんやろ?」

 4時間30分の死闘を終えた糸井は、複雑な表情を浮かべそう言った。ただ、負けゲームを引き分けに変えた打のヒーロー。それは間違いなく背番号7だ。

 チームに漂っていた停滞ムードを吹き飛ばしたのも糸井だった。4点を追う6回1死一塁。2球で2ストライクと追い込まれたが、浜口の3球目直球を強振。バックスクリーンに突き刺す15号2ランを放った。これでチームの連続無失点が25イニングでストップ。金本阪神ワーストの不名誉記録を一振りで食い止めた。

 CS進出目前も2試合連続の完封負けと足踏み状態が続いた。前日26日には金本監督が「彼らが雰囲気や姿勢を出すかどうかによる。打席とか走塁とか、彼らが作ってくれることを願うしかない」と糸井、福留、鳥谷のベテラントリオの奮起を促したほど。その翌日に1発を含む2安打3打点。一発回答で応えてみせた。

 まさかのトラブルが続いた。23日ヤクルト戦で守備の際、右手にボールが直撃して病院に直行。翌24日DeNA戦では同じ右手に死球を受けた。この試合まで直近3試合で11打数1安打と沈黙。3割目前だった打率も降下した。責任感が強いFA戦士は、それでも試合前の練習量を減らすことなくバットを振り込んだ。

 「明日、是が非でもみんなで勝ちを取りにいきます!」

 糸井はそう宣言して帰りのバスに乗り込んだ。CSで対戦する可能性があるDeNAに、無抵抗で負けるわけにはいかない。絶対に2位を堅持する-。超人がチームにカツを入れた。【桝井聡】

 ▼阪神は23日ヤクルト戦8回から27日DeNA戦5回まで、連続25イニング無得点。16年7月9日広島戦2回~同12日ヤクルト戦7回の23イニング連続を超え、16年の金本監督就任後では最長となった。