珍しい。阪神鳥谷敬内野手(36)は二塁ベース上に到達すると、小さく、それでいて力強く両手をバシッと合わせた。1点リードの5回2死二塁。右腕飯塚の外寄り140キロ直球にやや体勢を崩しながら、スイングを緩めず右翼線に運んだ。優勢ムードを加速させる適時二塁打。クールな背番号1が少しだけ感情をあらわにした。

 「チームとしても1点を取りたい場面だった。(自分の)ミスはミスで、取り返さないといけないので」

 理由があった。1打席目、慣れない送りバントに失敗していた。1回無死一塁でバットを寝かすも捕飛に。DeNA守備陣のミスで結果的に1死二塁となったが、先制へのリズムを生み出せなかった。そのまま終わらないのが修羅場をくぐり続けてきたベテランだ。片岡ヘッド兼打撃コーチも「バントの失敗があって、取り返した、ということ」と納得する意地を体現した。

 現状、二塁スタメンの座は安泰とは言えない。オープン戦打率は6分7厘。「不調のタイミングが3月で良かったよ」と本音も漏れた。相性の要素があったとはいえ、開幕2戦目の3月31日巨人戦ではいきなりのスタメン落ち。「オレはもともと心配性というか、不安になるタイプだから」と自己分析する男は今、もう1度レギュラーの座を不動にするために、がむしゃらに結果を求めている。

 開幕前最後の休養日となった3月26日。足を運んだ場所は大阪・堺市内のサッカーグラウンドだった。「せっかく休みで行けるんだから、見に行ってきたよ」。4月で小学6年生になった長男のプレーを目に焼きつけに行った。愛息が所属するチームは出場した大会のカテゴリーで見事に優勝。熱く汗を流す姿を見せつけられれば、パパだって負けてはいられない。

 この日は二塁守備でも再三、二遊間の難しい打球を的確にさばいた。芝が深くなった横浜スタジアムにも難なく対応し、「違和感はなくはないけど、しっかり守りを頑張らないといけないので」とサラリ。3月とは比べものにならないほど、鳥谷の存在感が戻ってきた。【佐井陽介】