フレッシュな一打で「開幕」した。巨人阿部慎之助内野手(39)が、今季11打席目で待望の初安打を放った。2点を追う7回1死満塁で代打で登場。ヤクルト近藤のフォークに食らいつき、右前へ同点の2点適時打を決めた。開幕から1カ月。勝負どころの代打を任される大ベテランが「心が折れそうになっていた」と苦しみ、耐えてこん身の一打へとつなげた。7回に一挙6得点の巨人は2年ぶりの7連勝となった。

 阿部がベンチから小走りで飛び出した。「代打阿部」のコールが続く。2点を追う7回1死。塁上が埋まっている。「いつも、いいところで使ってもらっている。一打席の喜びをもって今はやるしかない」。1ストライクからの132キロフォークにバットをぶつけた。駆けだす足がよろける。一、二塁間を破る同点の2点適時打を決め、喝采に沸くベンチへと両手人さし指を突き上げて応えた。

 口内には甘酸っぱさが残っていた。今季は打席に入る前、ベンチ裏で果汁100%のグレープフルーツジュースを口に含む。脳を活性化させる効果があると伝え聞いたからだ。「出来ることは、なんでもやるよ。チームが勝つためなら。そのための1本が打ちたい」と、1%でも可能性が増すならばと続けてきた。

 新人と同じ新境地で戦いに挑んでいる。プロ入り後は、けが以外は常にレギュラーを張ってきた。「いろいろやっているけど、なかなか形ができない」と代打の出番までの準備が難題だった。5回表が終わると、決まってベンチからバックヤードへと消える。通常は戦局を気にしながらマシン打撃でバットを慣らす。東京ドームでは、ブルペンへ向かい中継ぎ投手の投球を受けて目を慣らす。プロ2000安打の大半は捕手時代に積み上げた。「違和感はないし、しっくりくるよね」と、試行錯誤に捕球してから打撃に取り組むスタイルも加えた。

 開幕から1カ月で我慢と自信のバランスが整った。ここまで10打席は無安打だったが、2つの押し出し四球と前日28日は一ゴロで打点をマーク。「いい場面ばっかりだから緊張する。1球も気が抜けないし全球が大事」と、迷いも生じてバットが出てこないときもあった。それでも“顔”で打点を積み上げ「無安打で10打点を狙っていたけどね」と“無音の打点”で、折れそうな心をなんとか支えた。

 待望の一打を引っさげて、今季初のお立ち台に上がった。大歓声に迎えられると間髪入れずに「最高で~す!!」と声を張り上げた。スタンドが静まるのを待ってから「なんとか当たりました。自分でも『やっと打てたな』と言っちゃいました。なんとかチームが勝てる、追いつく一打を1本でも多く打ちたい」と続けた。代打ではリーグトップの今季5打点目に「初めて仕事ができた」。東京の桜はとっくに散った。初夏が迫る東京ドームで代打阿部が、やっと開花した。【為田聡史】