2年後に迫る東京オリンピック(五輪)のマラソンコースが先日、発表された。最大のポイントは37キロ以降の上り坂だという。日本マラソン界の復権なるか、注目の1日になりそうだ。コースを解説していた高橋尚子さんは00年シドニー五輪女子マラソンの金メダリストだ。当時、僕は陸上競技に取り組み、高橋さんの考え方に何度も触れた。「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ」は有名な座右の銘だ。

 こんな話も思い出した。「あなたは山の頂上を目指すとします。ロープウエーで行ける人がいれば登山道を歩く人もいる。ロープウエーはすごく楽です。山道はしんどいけれど、その途中に鳥がいれば、花も咲いている。山の『本当の姿』が分かるのはどっちだと思う?」。高橋さんが指導者から聞いた話だったか、およそ、こんな内容だった。最短距離でスターダムを駆け上がる選手がいれば、回り道する選手もいる。その道を極める例え話だ。決してエリートでなかった名ランナーは、雌伏の時、こんな言葉に支えられていた。

 さて、野球界だが、好打者の年度別成績を繰ってみた。衣笠4年目、落合3年目、秋山幸5年目、金本4年目、新井貴4年目…。初めて規定打席到達に要した年数だ。若手強化を最重要テーマに据える阪神だが、金本体制3年目は理想通りに進んでいない。2年目の大山は打率2割1分4厘にとどまり、3年目の高山は打撃不振で2軍調整中。昨季、チーム最多の20本塁打を放った8年目の中谷は5月22日にようやく今季初昇格だ。

 先週末の西武戦で、メットライフドームの外野フェンスに豪快な弾道を直撃させる中谷を見て、金本監督が3月下旬のオープン戦終了後に話したコメントを思い出した。結果が出ない中谷ら若手に向けた言葉だ。

 「相当振らせているけど終わった後、自分たちでやっている姿勢を買ってやりたい。決して、絶対、無駄ではない。必ずいつか、間違いなく実を結ぶから」

 2月の沖縄・宜野座キャンプ中、休日に宿舎の室内練習場をのぞいた関係者が驚いた。誰もいないはずなのに、中谷が一心不乱にバットを振っていたという。つかの間のオフでもバットを持った。冒頭の高橋さんの言葉には続きがある。「やがて大きな花が咲く」。メディアは「花」を求めて書く。日々の勝敗、個人成績…。阪神はチーム強化が一筋縄ではいかず、停滞感がある。開幕前は優勝への期待も高かっただけに、手厳しい論調も増えてきた。

 もう3年目と見るか、まだ3年目と見るか。育成の難しさに直面し、我慢のときを迎えている。あくまで頂点を目指す姿をとらえつつ、泥にまみれた「根」も、しっかり見守りたい。