阪神が連敗からも最下位からも脱出だ。5番陽川尚将内野手(26)が“命拾い”の決勝アーチだ。0-0で迎えた7回。1死一、三塁でファウルゾーンに飛球を打ち上げたが、DeNA一塁の中川大が落球失策。その直後、バックスクリーン右に決勝3ランを放った。9回にも適時二塁打を放ち、チームの全4得点をたたき出す活躍。引き分けを挟んだ連敗を5で止めた。

 生き返った男が、青色に染まるスタンドへ、値千金のアーチを描いた。7回、試合の均衡を破る3ラン。エスコバーが投じた155キロの直球を完璧に捉え、高々と上がった打球は風にも乗ってバックスクリーン右に飛び込んだ。着弾を見送ると普段クールな男から白い歯がこぼれた。快投した先発メッセンジャーも喜びを爆発させ、ガッツポーズ。ナインもゴリラポーズでヒーローを出迎えた。

 陽川 相手のミスもあり、もう1度チャンスをもらったので犠牲フライでも1点、という気持ちで思い切って打ちました。自分のスイングで捉えることができました。

 命拾いしていた。植田、福留の連打からチャンスを作り、1死一、三塁。本塁打を放つ直前だ。エスコバーの155キロの直球に差し込まれた。打球は一塁ファウルゾーンへの飛球。アウトか…。だが“神風”にあおられ、一塁中川大が落球失策。その直後に2号アーチをかっ飛ばしたが、実は、エスコバーの剛速球対策として、ひそかに工夫していた。打席ではバットを短めに持った。「思ったよりも(球が)速かったので、ちょっと短く持ってコンパクトにいこうと」。最善を尽くし、運も味方に付けた。仕切り直しの1球で、劇的な決勝弾を放った。

 金本監督に声を掛けられ、背中を押してもらった。この日の試合前。「威張っていけ、打席に。『陽川様のおなーりー』ってな。不安そうな顔していくな」。レギュラーで出るからには堂々と振る舞え-。そんなメッセージだった。前日25日に、指揮官は「凡打したとき、この世の終わりみたいな顔をする」とも指摘していた。勝負の世界に生きる男の背中がある。金言を胸に秘め、1発を放った。

 9回も左翼越えの適時二塁打を放ち、4打点目をマーク。得点圏打率は驚異の5割だ。昨季まで2軍戦では2年連続本塁打王&打点王。ようやく2軍の常連から抜け出し、開花の兆しだ。引き分けを挟んだチームの連敗を5で止め、最下位から5位に引き上げる活躍。チームの8試合ぶり先制点を生み出した長距離砲が、チームの救世主となった。【古財稜明】