西武辻発彦監督(59)は苦笑いで会見を締めた。「森コーチが一番、怒ってるんじゃない? そう書いといてよ」。先発多和田が6回7安打5失点。リリーフ陣は、9点リードの9回に上がったワグナーが大乱調。6失点で3点差まで追い上げられた。なんとか逃げ切ったが、スカッとした勝ちとはいかなかった。

 絶対に勝ちたい理由があった。6月28日。多臓器不全のため42歳の若さで急死した森慎二投手コーチの一周忌だった。辻監督は「今日がその日ということは前から分かっていた。いつも以上に勝ちたいと思っていた」と明かした。ブルペンとベンチに森さんの背番号89のユニホームが飾られ、試合前には、首脳陣が「恥ずかしい試合だけは、しないように」とハッパをかけた。キャプテンの浅村は「みんな分かっていた」。チーム一丸で今季最多18安打を重ね、14点を奪った。

 ポジションに関係なく、森さんの思い出を話す時、みんな優しい目になる。故障明けの15年、二人三脚で復活の道を歩んだ大石は「兄貴のような。何でも聞ける人」。増田も「『打たれても次の日は切り替えろ。9回を任せてるんだから』と。よく失敗していた時期に言われました」と感謝する。4安打3打点の森も「昔の映像を見ると、やんちゃな印象だった。お会いしたら、すごく優しくて、気にかけてくれました」と同じだ。

 辻監督はウイニングボールを森さんの家族に送るよう手配した。負ければ2位日本ハムとゲーム差なしの土俵際だった。「明日も全力で勝てるように」。天国の森さんへ、秋に最高の報告をする。【古川真弥】