陸上男子100メートルの元日本記録保持者の大阪ガス・朝原宣治氏(46)が26日、阪神からドラフト1位指名された同社の後輩、近本光司外野手(24)の走りに太鼓判を押した。スタートの切り方が、100メートルで日本歴代2位の10秒00を誇る山県亮太(26=セイコー)にそっくりな理想型で「足でゲームを支配できる」と絶賛。矢野監督が2番構想も抱く俊足巧打の韋駄天(いだてん)に、走りのプロから頼もしいお墨付きだ。

大阪市の大阪ガス本社。報道陣が見せた近本の二盗場面の動画を、朝原氏は食い入るように見つめた。「これ、スローで見られますか?」。停止と再生のボタンを細かく押してチェック。後輩社員の近本が二塁を陥れる姿に、驚きを隠さなかった。「楽勝でセーフじゃないですか」。応援にも駆けつけた今秋の社会人日本選手権(京セラドーム大阪)での二盗場面をこの日、動画で再確認。陸上男子100メートルの元日本記録保持者がその快足にうなった。

朝原氏が注目したのは、大きくリードを取って走りだす1歩目だった。「山県に似てますね、そっくり。彼はスタートブロックを蹴らない。地面を蹴らないんですよ、意識的に。地面を強く蹴って進むのではなく、上体を倒して走っていける。だから膝が伸び切らずスピードに乗れる」。100メートルで桐生祥秀(22=日本生命)に次ぐ日本歴代2位の10秒00を誇り、ロケットスタートを武器にする山県亮太にそっくりというのだ。

近本も前のめりに「倒れる」ようにスタートを切る。「結構『足で走ろう』って選手が多いんですけど、(近本は)腰とかお尻とか、体の中心部分から力が発揮されているので体重移動がスムーズ。『走ろう』とすると(1歩目の)左足が戻ってくるまでに時間がかかる。だけど(近本は)無駄がない。全身がうまく連動していて、こういう距離(塁間)を走るにはすごくいい走り方」。盗塁量産にも太鼓判だ。

矢野監督は「2番近本」プランも描いているが、朝原氏は「内野安打も盗塁も狙えて、相手は嫌。見ている方もスピード感があって楽しいのではないか」と分析。「足でゲームを支配できる。ピッチが速くて馬力もある。野球選手でここまで足の回転が速い人はいない」。球界でも過去に例を見ない最高の足の持ち主と評し、矢野阪神の強力兵器になるとのお墨付きだ。

08年北京オリンピック(五輪)の男子4×100メートルリレーで銀メダルを獲得した朝原氏は、大舞台で結果を残す秘訣(ひけつ)も伝授した。「バロメーターを自分なりに作っておくこと。この状態なら『大丈夫だ』というのを知っておくべき。僕の場合、寝起きの状態で好不調がわかった」。走りのプロから授かった金言を胸に、激しい外野競争を勝ち抜きにいく。【真柴健】