潜入をためらうほどの熱気が、窓ガラスを少し曇らせる。ロッテ浦和球場室内練習場では今年で6回目の「NPBアンパイア・スクール」が行われている。審判の卵たちがNPBの舞台でのジャッジを夢見て、プロの指導で腕を磨く。そ~っとドアを開けると、もわっとした空気と大声が私を襲った。

しばし見入った。守備妨害で打者走者がアウトになるケースでの審判の動きを実践練習していた。「もう少し大きいジャッジで」と講師が伝える。受講者たちは直立不動で聞き「はい!」と声を響かせた。

17日、6泊7日の合宿3日目。実技は早くも応用編に入っていた。ブルペンでは別組が球審の所作を受講中。待ち時間に「エア・ストライク」と右腕を上げる受講生も多い。「かなりハイレベルな争いをしています」と友寄正人審判長(60)。かつては1日の試験で合否が決まったそうだ。

147人の応募があり、選考された65人が参加した。鯵坂亮裕さん(18)は高校野球の強豪、花咲徳栄(埼玉)に審判志望で入学。学生コーチ兼任で審判技術を磨いた。「先輩や同期と一緒に、NPBの試合に出場したい」と夢を語る。NPB志望の若者が大半の中、大塚美佐枝さん(54=福岡県)は「笑われていい覚悟で来ました。周りはみんな息子の世代ですし」と笑った。学童野球の審判を始めたばかりで、目的はスキルアップ。「小さい頃、好きな野球をやらせてもらえず、ずっと気持ちにふたをしていました。結婚して、子どもも大きくなり、体が動けるうちにチャレンジしたい」と決心した。

65人の熱い思い。全員に合格してもらいたくなったが、友寄審判長は「なりたいだけではできません」と心を鬼にする。もっとも重要な資質は「迷いなく判定できるかどうか」。講師陣も折に触れ「思い切って」とアドバイスし、劇的に変化する受講者もいる。

採用者は例年3、4人。合格倍率10倍超の難関だ。誰を選ぶかは百戦錬磨のプロの審判たちにも難しいジャッジになるのだろう。昼食後、スクールはますます気合が入った。熱気あふれるスタジアムから、そ~っと退場した。【金子真仁】

◆NPB審判への道 アンパイア・スクールを終えての合格者は、まずは研修審判員として国内の独立リーグに派遣される。その後、育成審判員を経て、NPB審判員に。3年間でNPB契約に至ったスクール受講生もいる。これまでスクール出身から4人のNPB審判が誕生した。