バット投げ王者は打球も飛ばす。ヤクルトの沖縄・浦添キャンプ第2クール初日の6日、奥村展征内野手(23)がユニークトレで進化を示した。ハンマー投げのように空高くバットを放り投げる練習で、村上など長距離砲がいる中で誰よりも遠くにぶん投げた。石井琢朗打撃コーチ(48)発案による打撃フォーム矯正メニューで、強い体幹と美しいスイングを証明した。今オフに西武栗山と自主トレを行い打撃フォームも改造。6年目の飛躍でレギュラーを狙う。

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午前9時25分、ANA BALLPARK浦添がコロッセオに変わった。「うおおおっ!」。奥村の野太い絶叫がすり鉢状の丘に囲まれた球場に響いた。右翼ポール際からバックスクリーン方向へボール…ではなくバットをぶん投げた。高々と舞った打棒は約30メートル先でバウンド。「無駄な動きがなく、自分のスイングができている」と村上、山崎、渡辺、吉田が参加した早出練習で誰よりも遠く、そして真っすぐに飛ばした。

バット投げといえば強打者のパフォーマンスと思われるが、明確な意図があった。発案者の石井琢打撃コーチは「ハンマー投げと一緒。体幹だったり、ボディーバランスが大事になる。手をこねないようにしないと真っすぐに飛ばないし、バットを内側から出すことも意識できる」と説明。奥村以外は引っかけてファウルになったり、最も体の大きい村上も距離が伸びなかった。打撃フォームの重心やスイングの軌道、手の使い方が一致しなければ飛ばない、奥の深い練習だった。

なぜ、奥村が飛ばせたのか。今オフ西武栗山の自主トレに参加し、体幹の強化に励んでいた。

半円のバランスボールを使った練習で、ボール上で片足スクワットをするなどバランス感覚を磨いた。それに伴い打撃フォームも改造。体を左右に揺らすスウェーを無くし、タイミングを取る足の上げ幅も小さくした。「重心を真ん中に置きました。力感は無いけど自分の中での“マン振り”ができるようになった」と話し、ロングティーでは28スイング中12本の柵越え。成果を示した。

第2クール2日目の今日7日には初の紅白戦を実施。今季は左翼にも挑戦し、定位置奪取をうかがう。石井琢打撃コーチも「フォームは安定している。実戦でどういう打撃をするか」と期待。奥村は「何かを変えていかないと。欲を出さずに打撃を磨きます」と引き締める。勝負の6年目。次は本塁打後の、美しいバット投げだ。【島根純】

◆奥村展征(おくむら・のぶゆき)1995年(平7)5月26日、滋賀県甲西町(現湖南市)生まれ。日大山形から13年ドラフト4位で巨人。15年1月、ヤクルトから巨人へFA移籍した相川亮二(現巨人1軍バッテリーコーチ)の人的補償でヤクルトへ。昨季は32試合に出場し打率2割2分、1本塁打、4打点。178センチ、76キロ。右投げ左打ち。推定年俸950万円。

 

<キャンプのユニーク練習>

◆地鶏トレ 広島が03年の秋季キャンプで採用。腰を落として素早い動きを追うことで、フットワークを鍛える狙い。宮崎県内の養鶏場から寄付された5羽は、ちょっとおすまし。「まず、地鶏を鍛えた方が…」と不発に終わり、通常の守備練習を行った。

◆ワゴン車 09年1月、ソフトバンク馬原(当時)が、キャンプ、WBCと続く過酷日程を視野に練習で導入。股関節強化のために、重さ1・5トンの8人乗りワゴン車を押し上げた。

◆大合唱 12年、DeNAがランニングのかけ声に当時の中畑監督の応援歌を採用。「燃えろ~キヨシ男なら~ここで1発キ・ヨ・シ」の一糸乱れぬ野太い声に「今までで一番いい練習だった」と感激。

◆投手野手入れ替え 12年、ロッテは秋季キャンプで投手と野手の練習メニューを入れ替え。野手がブルペンに入り、投手が打撃練習を行い、それぞれの気持ちを理解した。

◆もしもしトレ 13年1月、西武小石は電話の受話器を5000円で購入。電話に出る時の肘の使い方が理想的だったため、キャンプでも常時持ち歩いてフォームを固めた。

◆こて 中日谷繁監督が15年の秋季キャンプで導入。けが防止の目的で、捕手に剣道の「こて」を装着するよう指示を出した。1セット2500円の中古品を用意。

◆風船トレ 16年、ロッテの投手陣は寝ころびながら風船を「ふーふー」と膨らませた。ピンポイントで横隔膜を強化し、体幹を鍛えた。

◆霧吹きトレ 14年、阪神呉昇桓投手は夜な夜な霧吹きをプッシュ。右腕を真っすぐ伸ばして1000回以上行い、握力を鍛えた。

◆ケンカボールトレ 16年11月、巨人の秋季キャンプで実施。1対9人のボール回しで足を使ったスローイングを意識付けした。長嶋終身名誉監督の発案。