卒業して20年以上たつのに、ここに来ると背筋が伸びる。土手に包まれた野球場、雑木林のなかのブルペン…。埼玉・川越市の東洋大はロッテの2軍を率いる今岡真訪にとって原点だ。3月上旬、練習試合で指揮を執るため母校を訪ねた。

指揮官の姿勢がにじみ出たのは4回だ。プロ2年目左腕の山本が4者連続四球で、ストライクを取りに行った球を痛打される。それでも今岡は動かない。5安打を集中されて7失点。1回で打者12人、49球を要しても投げさせた。「1イニングは代えないと決めていた」と言う。一方で起用法について思いめぐらせた。

「我慢して花を咲かせるのか。我慢して自信をなくさせてしまうのか。『我慢』をどう線引きするかはプロもアマチュアも一緒」。山本は2月のキャンプから制球難を解消できず格下相手でも復調できなかった。それでも、突き放さない。

「山本が招いた結果だから。この先、どういう言動を周りに見せるか。野手も山本を見ているからね」

人を使い、人を育てる。監督のあるべき姿に触れたのは実は学生時代だ。96年春。負けが込んで、東都リーグ2部転落の危機に陥った。ある試合の1死三塁で凡退した敗戦後、高橋昭雄監督(当時)に直訴した。

「自分にもスクイズのサインを出してください」

怒声が返ってきた。

「もう、4番を降りろ!! 7、8番でも満足できるなら出してやる。ど真ん中を空振りしても誰も文句言わんよ」

右前にクリーンヒットを打つと、また雷を落とされた。「何、初球からおっつけて打ってんだ!」。お前は小さくまとまるな。主砲として生きろ。今岡も「ヒット打ったのに怒る監督なんて普通いない」と冗談めかした。愛がある。学生の個性を生かす采配だった。東都リーグ最多542勝の名将の背中に学び、大学時代の財産は、いま生きる。

母校との一戦は中盤に再逆転し、プロの威厳を保った。「プロと違う、ひたむきさがヒリヒリと伝わる。刺激になる」。1年前の対戦を思い出したのだろう。唐突に言う。「アイツ、春先、よく打っていましたよね。やっぱり、気になるんですよね。一緒にやりたいと思っていたくらいですから」。昨年まで東洋大でプレーし、昨秋ドラフト7位でオリックスに入団した中川圭太のことだった。

右打ちの内野手、PL学園出身と共通点は多い。高橋が「落ちる球をうまく膝で運んでいた。1年生でこんな技術を持った選手がいるんだと驚いたよ。今岡の再来かと思った」と評した逸材だ。PL学園最後のプロ野球選手になる可能性があり、9日にオープン戦でマルチ安打デビューを飾るなど奮闘する。同窓のよしみがある。そのまなざしは同じグラウンドで白球を追った後輩へのエールだろう。(敬称略)