柔よく剛を制した!? 「ラオウ」ことオリックス杉本裕太郎外野手(27)がしなやかなスイングでバットを振り抜いた。

同点で迎えた3回無死一塁。今井が投じた初球、高めの145キロ直球を強振。打球はバックスクリーン中段を直撃する推定135メートルの特大2ラン。「いつかしてほしかった」とベンチではサイレントトリートメントで祝福された。先頭で迎えた7回には、田村の直球を左中間席上段まで運び、プロ初の1試合2発で大勝を呼び込んだ。

「2本とも完璧でした。バッティング練習でもなかなか打てない打球が飛んでくれました!」

開幕1軍を逃した悔しさをバネにした。3月24日の阪神とのオープン戦後、首脳陣から「速い真っすぐとキレのある変化球を打てるようにしてきてくれ」と告げられた。「悔しかった」とウエスタン・リーグでは9試合で打率3割1分3厘、4本塁打と奮闘し、10日に1軍合流。4年目でプロ初の4番起用にバットで応えた。

独特の表現で好調の要因を説明した。「ラオウよりトキの『柔の拳』という感じですね!」。トキとは漫画「北斗の拳」の主人公ケンシロウの兄で、ラオウの実弟。「柔の拳」とは静水のように拳を受け流して隙を突くという北斗神拳の1つ。「思いっきり振らなくても飛ぶと思った。6、7割で力を抜いて気持ちよく打つようにしたら前よりマシになりました」とオフから脱力打法を身につけた。ラオウに憧れるが、トキも崇拝する。プロ1年目に使用した内野手用のグラブにトキの名言「激流を制するは静水」と刺しゅうしたほどだ。

大幅な打順変更の中で軸に座り、今季初の2桁得点をけん引。西村監督も「4番としてしっかりやってくれた。見事なホームラン。杉本が打つと盛り上がる」と絶賛。プロ通算7安打も、5本塁打に二塁打2本といまだ「単打」を記録しておらず、「そのうち出ると思う」とニヤリ。体重100キロ超えのパワフルな「剛」に「柔」が加わった。進化した男が一躍チームの救世主となった。【古財稜明】

◆杉本裕太郎(すぎもと・ゆうたろう)1991年(平3)4月5日、徳島・阿南市生まれ。小1で野球を始め、徳島商では1年夏に甲子園出場も出番なし。高校通算12本塁打。青学大、JR西日本を経て15年ドラフト10位でオリックス入団。昨季7月にはプロ野球史上8人目の2戦連続満塁弾を放った。9月2日西武戦で、この日の先発投手でもある今井から死球を受けて左手を骨折し、シーズン途中に離脱していた。右投げ右打ち。