ヒーローは上半身を脱力させていた。ロッテ井上晴哉内野手(29)は同点の8回2死二塁、打席に向かう前に井口監督から呼び止められた。「力入りすぎ」。そう言われて「いかに上半身の力を抜くかと考えて打席に入りました」。日本ハム宮西の直球をとらえると、打球はライナーで中前へ。「上半身の力が抜けていたのがいい方向につながった」。歓喜で沸く一塁側ベンチに向かって右手を強く突き立てた。

この日は小学生以下の来場者にユニホームが配布される日で、多くの家族連れが応援に駆けつけた。子どもたちの前でヒーローになった自身は「父親のような父親」になることが夢だった。子供の頃、戦隊ヒーローものをテレビで見たことがなく、すごい人といえば父親だった。暇さえあればキャッチボールやノックをしてもらったのを忘れない。「ここまで成長させてくれた人。僕の中ではヒーローです。僕はまだまだ」。求めるヒーロー像にはたどりついていない。

お立ち台では涙をこらえた。昨季のブレークで、期待を背負いながら開幕4番に座ったものの、打撃不振で2軍降格を味わうなど苦しんだ。その間、代役4番を務めた角中が「本当の4番が帰ってくるまで待ってます」と言ったのを伝え聞いた。「カクさん(角中)が待ってると言ってくれたので、それを励みに下で一生懸命頑張ってきた」と目頭を熱くさせた。温かい歓声の降り注ぐ本拠地のお立ち台は格別だった。「こういう日が続くように頑張ります」。頼もしい主砲がマリンに帰ってきた。【久永壮真】