シーズンオフのスペシャル企画で阪神ナインの原点、足跡をたどる「猛虎のルーツ」。第2回は今季の最強ブルペン陣に欠かせない存在となった阪神岩崎優投手(28)です。

清水東高(静岡)時代は体が弱く、その能力は「つぼみ」の状態だった。恩師の羽根田暢尚監督(55=現駿河総合副部長)が、プロでの活躍につながる当時の地道な土台作りを明かした。【取材・構成=奥田隼人】   ◇   ◇   ◇

「みるい」。羽根田氏は入学当初の岩崎の印象をこう振り返った。静岡の方言で「若い」「未熟」を意味する。182・5センチ、75・5キロ。中学で軟式野球を始め、本格的に投手を始めたのは中3の夏。入学直後の4月、ブルペンで初めて岩崎の投球フォームを見た。「ピッチングのことは何も知らなかった。フォームが全然できてなくて。自己流ですよ」。体をうまく使えず、ユニホームの胸の校名ロゴを打者に向けたまま投げていた。

全く磨かれていない原石。そんな状態でも、同氏は光るものを感じたという。それは歩幅にあった。「すごく印象にあるのは、ストライドがデカかった」。普通の投手なら6歩から6歩半のストライドが、岩崎は7歩から7歩半あった。個性を尊重して、フォームをイジらず、歩幅も変えたくなかった。しかし、未完成のフォームでは体への負担が大きかった。

同氏はすぐ、行動に移した。入学間もない岩崎を、静岡県内の「自然治療医学研究所」へメディカルチェックに連れて行った。松井秀喜氏らアスリートも多く訪れる名医から、こんな助言を受けた。「この子はすごくいい筋肉をしているけど、壊れる。とにかく我慢しなさい。そうすれば、プロにいけるかもしれない」。そこから、体幹と下半身を徹底的に鍛える日々が始まった。

プロ野球選手の育成は未経験だった同氏は、多くの指導者に協力を仰いだ。当時、帝京三(山梨)に勤務していた現明桜(秋田)監督の輿石重弘監督と全国講習会で知り合うと、コーチとして月1回、練習に招いた。投手育成に定評があった輿石氏はフォーム固めと下半身強化に有効と、シャドーピッチングを投手陣に勧めた。岩崎は練習後、シャドー用の合成樹脂製投球練習器具「なげる~ん」を握って鏡に向かい、何度もその棒を振った。冬のオフ期間に選手たちの競争心を刺激する目的で、羽根田氏が自主トレーニングでのダッシュや素振りなどの数を競わせるコンテスト(1カ月)を開いた。そこで岩崎は他の選手とケタ違いの数値を記録。ある月、シャドーピッチングで腕を振った回数は合計2790回にのぼった。地道に時間をかけて、土台を固めた。

試合のない冬の時期、岩崎は二塁の守備位置に入った。ひたすら一、二塁間へのノックを受け、三塁送球を繰り返した。ピッチングはスローイングから。投手作りは下半身を使うノックが一番、という羽根田氏の信念があった。やがて周囲を驚かせた。「速い感じはしないけど『ぐぅ~』ってホームベースの方に来るとボールが大きくなる。ソフトボールみたいにね。あり得ないよな…」。今の岩崎の直球の特長に、球速には表れない抜群の伸びがある。その原型が、高校時代に生まれた。当時の衝撃を、羽根田氏は興奮気味に振り返った。

岩崎は高1では風邪から肺炎にかかった。2年時は夏前に熱中症になったという。甲子園には縁がなく、清水東の日々は大きく羽ばたくための助走期間となった。「高3でも、私が目指す岩崎の60%くらいでした」。未完の大器は、羽根田氏が縁をつないで進んだ国士舘大で腕を磨いた。しっかりとした土壌の上に、才能という花は開く。ここ3年の登板数は175試合。タフな左腕に「みるい」と言われた面影はもうない。

○…岩崎は高校時代をこう振り返る。「人とのつながりが広がった期間。複数の指導者から指導もしてもらい、野球に対する意識も変わった。野球バカになってもダメということ」。羽根田氏からは体の大切さを教わった。「目の前の出来事で一喜一憂しないこと。また次の戦いはくるから」という教えを今も大事にする。「高校を卒業してからずっと応援してくれている。羽根田さんを始め、関係者の方々を何とか喜ばせたい」と、恩師の存在は大きなモチベーションになっているという。

◆今季の岩崎 開幕2軍スタートも、4月12日中日戦(1回無失点)で今季初登板。4月30日広島戦では9回を締め、平成最後の登板投手となった。5月上旬にインフルエンザA型と診断されて離脱し、6月中旬に復帰。夏場は登板14試合連続無失点も記録。今季の阪神救援陣において、40試合以上登板した7人の中でトップの防御率1・01。CSでも5試合に登板し、救援防御率12球団1位の最強リリーフ陣を支えた。

◆岩崎優(いわざき・すぐる)1991年(平3)6月19日生まれ、静岡県出身。清水四中で軟式野球を始め、エースで4番だった清水東3年夏は静岡大会2回戦敗退。東都大学2部リーグの国士舘大では、4年間で通算10勝8敗。13年ドラフト6位で阪神入団。入団3年は先発も、17年からリリーフに転向。今季は途中から登場曲を「アイキャントライ」(河野万里奈)に変更。185センチ、91キロ。左投げ左打ち。