東京6大学リーグ4年生の進路がほぼ出そろった。最速143キロ左腕の東大・山下大志(ひろし)投手(4年=豊田西)は、学業とともにボディービルを追究する。制球に苦しみ野球に対する根本的な疑問を口にしたサウスポーは、今後も自らと向かい合う。

「こんなに広い宇宙の中で、どうしてこんなに小さいストライクゾーンに投げないといけないのか」

昨年9月、山下がチームメートに投じた言葉は斬新だった。「東大野球部は仲が良くて、いかに面白いことを言うか、それが文化というか、仲間の中では楽しい時間の過ごし方でした。僕はコントロールが悪くていじられていたので、受けを取りにいったと記憶しています」。制球に苦しんだその深層心理に根本的疑問もあったのかもしれない。

2年春に143キロを記録したが、夏以降に打球を受け左手甲、左腕を相次いで骨折。腰椎の疲労骨折が追い打ちをかけ、フォームを見失った。「宇宙…」のフレーズは笑いを意識しつつも、できないもどかしさが無限に広がる宇宙とセットになって口を突いた。「今思うと詩的な感じですね」と笑った。伝え聞いた浜田監督(当時)から、メンタル強化をテーマに建長寺での体験座禅の機会が与えられた。30分間、宇宙を感じつつ、心を無にして自分と向き合った。「スッキリしました。頭の中が整理された気がしました」。

今は学業に専念する傍ら、野球部時代に没頭した筋トレへの情熱が高じボディービルにのめり込む。「筋トレはやればやるだけ筋線維が浮き出て、目に見えて結果が分かります。毎日フィードバックが得られます」。魅了された理由にも野球に熱中した名残がある。

もし後輩が同じフレーズで問いかけてきたら? 爽やかに即答した。「僕に答えは出せませんでした。だから、ストライクゾーンでボール1個を出し入れする6大学の投手のレベルはすごいと、リスペクトしています」。国際協力に関連する仕事を目指し、医学部健康総合科学科の人類生態学教室で学びながら人口学とも向き合う日々。ボディービルの東京オープンにも出場する予定だという。【井上真】

◆山下大志(やました・ひろし)1996年(平8)9月3日生まれ、愛知県瀬戸市出身。小4から效範(こうはん)少年野球クラブで野球をはじめ瀬戸シニアから豊田西。浪人中の東大模試で全国1位を記録した。好きな言葉は「行動しないということは、存在しないのと一緒」。6大学通算は10試合に登板し0勝2敗。