学童野球(小学生の軟式野球)の未来を開く集まりに潜入した。「第3回 神奈川学童野球指導者セミナー -少年期のスポーツ障害を予防する-」が19日、横浜市内で開催され、神奈川県の学童野球指導者、トレーナーなど約550人が参加した。

医師、理学療法士、プロ野球選手、コーチなどを講師に迎え、幅広い講演が行われた。野球離れと闘い、有能な人材を育てる。日本の野球の希望がここにある。【取材・構成=古川真弥】

   ◇   ◇   ◇

知らなかった…。「子どもに筋トレをさせても、しょうがないです」。理学療法士の坂田淳氏(トヨタ記念病院)の言葉に、小学生時代の記憶がよみがえる。ミニバスケットボールのチームに入っていた。腹筋がどうにもできず、苦痛でしょうがなかった。あれは何だったんだ! と勝手に憤りつつ、耳を傾けた。

11歳以下、つまり小学生まではバランス、柔軟性、体の使い方を学ぶ時期で、筋トレや持久走をしても身につかないという。基礎体力は中学生から。器具を用いるウエートは高校生から。他にも発見は多かった。印象的だったのは「猫背は故障リスクが2・5倍」だ。ゲームで遊ぶ時間が増え、子どもの姿勢が悪くなっている。前列に座っていた母親は、一緒に来場した子どもの姿勢を正していた。

吉田干城氏(横浜ベースボール接骨院医科学研究所院長)は、投球動作を動作学・スポーツ運動学の観点から解説。専門用語を交え、大学の講義のように本格的だった。西中直也医師(昭和大大学院教授)は、投球が肘肩に与えるストレスから投球制限を解説。「投球が肘肩に負担をかけるのは当然」。だからこそ、いかに負担を少なくするかが重要となる。山崎哲也医師(横浜南共済病院スポーツ整形外科部長)は症例を画像で解説。権威の話は貴重だ。大関信武医師(日本スポーツ医学検定機構代表理事)は、ラグビーチームのドクター経験からスポーツマンシップを説いた。

開会あいさつをした横浜高元監督の渡辺元智氏は「子どもたちは将来にとって、かけがえのない財産」と訴えた。野球どころ神奈川でさえ、この7年で学童野球チームが約2000から600以下に減少。現場の危機感は強い。救いは、熱心に耳を傾け質問する参加者にある。セミナーを立ち上げた前慶応高監督の上田誠氏は「6月には技術講習会を行います」と明かした。プロ野球選手も多くが学童野球出身。土台を支える取り組みは続く。

<学童野球メモ>

◆学童野球とは 全日本軟式野球連盟では小学生で編成されたクラブチームを「学童野球」と指す。「少年野球」は中学生が対象。

◆使用球 連盟公認球は直径64~65ミリ、重量127・2~130・8グラムの軟式球J号。ただし、小学3年生以下ではJ号よりも小さいD号を使用する。

◆バット 公認野球規則で規定されたものを使用。金属、ハイコン(複合)バットに関してはJ・S・B・Bのマークをつけた公認のものに限る。

◆競技場区画 学童野球と少年野球で間隔が違い、学童野球では投手板から本塁まで16メートル、各塁間は23メートル。本塁から両翼は70メートル、本塁から中堅は85メートル。

◆試合方式 ゲームは7イニング制。小学3年生以下では5イニング制。健康を考慮し、5回終了時に試合開始後2時間30分を経過した場合は新しいイニングに入らない。

◆その他のルール 学童野球では投手の変化球を禁止している。また、投球は練習も含めて1日70球、1週間で300球以内。練習は1週間に6日以内、1日に3時間以内。1年間での試合数は100試合以内。

◆チーム編成 人数制限はなし。ただし、公式大会に出場する場合は監督1人、コーチ2人以内、選手10人以上20人以内。監督とコーチは成人に限る。

◆チーム数 全日本軟式野球連盟を中心に47都道府県に支部があり、18年時点で全国1万1470チームが活動。都道府県別では東京都の1174チームが最多で、北海道の832チームが続く。最少は愛媛県の53チーム。

◆全国大会 全日本軟式野球連盟が「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会」と「全国スポーツ少年団軟式野球交流大会」を主催している。他の全国大会は12球団ジュニアトーナメント、ポップアスリートカップ全国少年野球大会、イチロー杯争奪学童軟式野球大会など。

◆プロ野球選手と学童野球 イチロー氏や松井秀喜氏ら多くのプロ選手が学童野球の大会を開催してきた。イチロー氏は豊山町スポーツ少年団、松井氏は根上学童野球クラブの出身。

◆独自ルールも 日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏が大会会長を務める宮本慎也杯ではバントを禁止。「とにかく思い切りバットを振って、野球を楽しんでほしい」と独自のルールで開催している。19年からは70球の球数制限を設け、子どもたちの体を大事にする。

◆飛ぶボール 将来的に硬式に進むことを見据え、新たな取り組みとして飛ぶボールを使用。19年末の12球団ジュニアトーナメントでは過去最高の26本塁打が飛び出した。