怪物の自信が確信に変わった。21年前の1999年5月16日、西武松坂大輔投手がオリックス・イチローとプロ初対戦。無安打に抑え3三振を奪った。試合後のお立ち台。18歳のルーキーは「自信が確信に変わりました」と名言を残した。

【復刻記事】

18歳の怪物投手が天才打者に投げ勝った。西武松坂大輔投手(18)と5年連続首位打者のオリックス・イチローとの夢の対決が実現。5万の大観衆が見守った初対決は、3打数3三振(1四球)に抑えた松坂の完勝に終わった。イチローが、1試合で同じ投手に3つも三振を取られたのは3度目。「真っすぐも変化球も素晴らしい」とイチローも素直に負けを認めた。松坂は8回で降板したが自己最多の13三振を奪い3勝目。「自信が確信に変わりました」とイチロー斬(ぎ)りに笑顔を見せた。

「3三振した僕が言えることじゃないけど、これからの対戦をイメージしていきたい。勝負以外の楽しみが増えました」。野茂、伊良部が日本を去り、敵なしと言われてきた天才打者にこうまで言わせた松坂はその時、お立ち台の上で今までとは違う手ごたえを感じ取っていた。

「これまでは何か自信がなかったけど、自信が確信に変わってきました」。過去2度のお立ち台よりも、笑顔が一段と輝いてみえた。西武入団を決めた際、ハッキリと口にした。「一番、対戦したいのはイチローさんです」。イチローを抑えてこそプロで何年もメシを食っていける。抑える自信はある。が、対戦して、3つの三振を取ってみて初めて自信が確信に変わった。

5万人が見守った第1打席。注目の第1球は内角低めに外れる149キロのストレートだった。2球目の153キロ直球をファウルしたが、ここからイチローのリズムが狂い出す。松坂はイチローのゆったりしたテンポを無視するように、テンポ良くボールを投げ込んだ。6球目。外角の速球で空振り三振。イチローは、思わずうつむき苦笑するしかなかった。

「ユニホームの胸のマークがなかなか見えてこないフォームでしたね」。初めての対戦で、わずか6球で、イチローは独特の言い回しで松坂のすごさを表現してみせた。左肩がギリギリまで開かない。ボールの出所が見えない。配球を読んだり、ヤマを張ることをしない。卓越した動体視力と感性で、来た球を打ち返してきた。それだけで前人未到の5年連続首位打者を獲得してきた天才に、初めて恐怖心を抱かせた。

3回の第2打席では、スライダーで見逃し三振に仕留めた。「イメージと違いましたね」。ボールゾーンから外角ギリギリに切れ込んできたスライダーにイチローのバットはピクリとも動かない。6回の第3打席はカウント2-2から外角高めのやや抜けたスライダーに空振り三振。「外してくると思ったんですが、セオリー通りというか、最後は予想通りでしたね」とイチロー。意味不明のコメントが天才の混乱ぶりを表していた。

8回の第4打席は5球すべて直球勝負を挑み四球に終わった。イチローから1試合で3つの三振を奪った投手は過去2人しかいない。それでも足りず4つ目を取りにいった。5球のうち150キロ以上が3球。イチローも「最後まで直球の力が落ちないということは、基礎体力がしっかりしている証拠です」と話した。

全23球中、イチローがバットに当てたのは5球。いずれも後方に飛んだファウルだった。1球たりとも前には飛ばせなかった。この日150キロ以上のボールは15球を数えたが、うち、イチローへ7球を投げ込んだ。

イチローがプロ入りした1992年、「アンパンマン」と呼ばれた小太りの小学6年生は、少年野球の卒団式で「プロ野球選手になる」と宣言した。それから7年。「燃えるものがない」と米大リーグ移籍へ目を向け始めた天才バッターを、18歳の怪物が本気にさせた。

▼松坂が13奪三振で3勝目を挙げた。高校出の新人が13個も三振を取ったのは1987年8月9日近藤(中日)が巨人戦で記録して以来、12年ぶり。高卒新人の最多奪三振記録は66年9月27日に鈴木啓(近鉄)が西鉄戦でつくった15個で、もし松坂が9回も投げていればこの記録に届いたかもしれない。

注目のイチローからは3奪三振。イチローの1試合3三振以上は5度目(過去94年2度、96年2度)になるが、1人でイチローから3三振を奪った投手は、94年9月23日の渡辺秀(ダイエー)同年9月27日高村(近鉄=3連続)に次いで松坂が3人目だ。これで松坂は44回2/3を投げて43奪三振となり、奪三振率が8・66で工藤(ダイエー)を抜いてリーグ1位。被打率も1割4分4厘(153打数22安打)で、小池(近鉄)の1割5分6厘を抑えてリーグトップに立った。

<松坂フィーバー>

◆観衆 5万人は西武ドーム記録で97年8月30日のオリックス戦以来2年ぶり。デーゲームでは96年5月6日のオリックス戦以来の超満員となった。

◆開門 通常より20分早い午前10時40分。開門直後、多くのファンが席取りに走り込む。

◆弁当 通常観衆3万人を想定する5月の休日は5000個だが、この日は7000個。

◆グッズ売り場 松坂グッズを何種類もまとめ買いするファンが急増。新入荷するのはいつかの問い合わせも殺到。

◆ダフ屋 売れないと愚痴を言う理由はほとんどがすでにチケットを持っていたため。定価でも売れないと話した。

※記録、表記などは当時のもの